mimi's world * HOPE and DESIRE

_______ BE-lie-VE * be-LIE ve * believe...the SHAMs for heart healing * mimi's world-7 _______

To be my Grace - OTHER WORLD. XXVI  

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京子は婚礼の儀に羽織っていた、真っ白なシフォンのガウンを衣装さんに着せてもらう。


イシス女神を象って、胸にイシス結びと言われる豊穣の結び方・・・らしい、さっきと同じ様に、やっぱ知らないその容に金色の紐を結ばれている。

長い裾に月の光が共鳴し輝くといわれる銀と水晶のビーズを散りばめられている・・・

この長い裾。

これが、このシーンでお役に立つらしい。
さっきの撮影では、ウエディングベールだろな。ぐらいにしか別に何とも思わなかった。



「 はい、じゃぁね・・・ 」


監督が京子に立ち振る舞いを教えている。

そう、真っ直ぐ祭壇っていっても、あの箱ね・・・とブルー尽くめのセットを指差して、それで後ろ向いて、ぴょんっと両足で踏み切って、あれ・・・

そう言って指差したのは、ブルーのエア・マットレス。貴島の使っていた物の様だった。

グイィーーンっと空気をパンパンに入れている。


「 アレに、背中から ばさっと倒れて。 」


倒れたら上を見詰めたまま、手を上に伸ばして・・・あぁ、台詞は無いから音いれないからさ、キューの合図出すから。いい?

あのマット、無数の小さい穴を開けてあるから、それで倒れるとね、下から風が吹くから驚かないで。

表情は・・・そうだな・・・

“ シーザー、愛してる。 ”

・・・かな?


そんな事を監督が言いながら、ちらっと俺を見た。



「 はい。できます。 」


もちろんですよ。と、微笑みながら返答する京子を見て、う~ん、俺も愛してる。と、血のりで真っ赤な手とグレープジュースをかけられた横っ面を、とりあえずと渡されたオシボリで拭きながら思っていた。


ブルーバックのセットの中で、京子はゆっくりと前に歩を一歩一歩・・・

うつろな瞳でただ前を見て歩いている。

祭壇となるブルーの箱の前で止まると振り返り、そちらを無表情で見詰めたまま後ろにピョンと跳ねて倒れた。

言われたとおりに手を上に伸ばすと、エア・マットレスの無数の小さな穴から空気が重みで抜けて行く。

クレオパトラのシフォンのベールが思っていたよりも ものすごい勢いで、下から上に風を受けて殆んど真上に舞っている。


「 ハイ、泣いて~。目を瞑るよ~。 」


メガホンで、そんな事を言われている。

クレオパトラは目を閉じると、右からも左からも、数滴の涙を落とし、下からの風がその涙を上に浮かべて飛んでいった。

光のセットの中に、クレオパトラの涙だけが、きらっと光った様に見えた。


「 京子さん。ぎゃっと目を開けて~! 」


クレオパトラも、言われた通りにぎゃっと目を開けたら、


「 はい。息止めて。 」


目を開けたまま、息を止めているのだろう・・・
ものすごく無表情だな。と思って見ていた。


シューーっと、音をたてていたエア・マットレスの空気が抜けてきて

ペタンコに成りながら、シュー・・・って音も微かに成ってフェードアウトした。


「 OK じゃ、モニターチェックして、ナレーション入れてみようか・・・。 」




起き上がった京子も寄って来て、シーザーとブルータスの死のシーンで調子にのった監督は、テキパキと合成を入れる様に指図していた。





________  満月の夜・・・

イシス神殿大祭司である、イシスの女神を称されたクレオパトラ。

ローマの戦いの神と崇められたジュリアス・シーザーとの結いの儀を行ったこの場所。

あの時は・・・鏡の様に輝く白い大理石で埋めつくし、王の標章であるロータス蓮の花を黄金で無数に造らせて、エジプト全土から寄せ集めたありったけのバラ・・・

厚みが膝丈になるほど、バラの花でこの神殿を埋め尽くして、その芳香に酔うほどで・・・

この白いベールの裾を引きながら、シーザーの伸ばした手に自分の手を重ねた


けれど・・・今はもう・・・・


そのシーザーの亡き後、シーザリオンも見せしめの様に命を絶たれた。

振り返ると開け放した神殿の先に、アレキサンドリア自国の街の灯りが・・

星の様に映る


神殿の白く輝く大理石とたくさんの黄金の蓮の花も消えて・・・

そこは暗闇の世界に変わっていた。

二人が永遠の愛を誓った祭壇は・・・

抜け落ちて、その部分だけ星月夜の満天の星空へと続く空間に変わった。




_____  愛するエジプト国民よ・・・

    我が王妃クレオパトラ7世は、自国の象徴と呼ばれるほどの者・・・・

    ・・・ではない。

    我が王宮に恥ずべき行為を、許されるのであろうか・・・

    事も有ろうに、我が国の王宮にローマ軍の将、シーザーを城に駐留させ、みだらな関係を結び

    王妃でありながら、ローマ軍に身を売って国を汚した。

    代々のプトレマイオスの血が泣いておられる・・・

    プトレマイオスの血を絶やす行為を自ら起こした、この・・・囚人・・・

    ・・・囚人、クレオパトラを追放する_________




アレキサンドリアの街灯りの向こうから・・・

聞こえて来る国民の声は・・・

勇者の力を必要とした、富に現を抜かしたエジプト軍の戦意の弱さを補う為とは・・・

誰に言っても、もう・・・

ただの言い訳にしか聴こえてくれないのだろう・・・



________ 私も自分の国民によって処刑されるのであらば

    自らその命を、王の威厳と誇りの中に、見せて進ぜよう・・・__________




クレオパトラが自国の灯りを見詰めたまま、闇と化して消えた神殿


自国の先代の王から受け継いだ誇りと共に


イシス神殿のイシス女神大祭司としての心から憂い敬い信じ続けた命を


その神に捧げる __________



神の元に跪き、エジプトの王とローマの英雄の


誇り高き気高く振舞っていた、この二人が


頭を垂れ二人の永遠の愛を誓い合った


この場所に残された二人の永遠の愛と、二人の成し遂げられなかった無念を・・・




手を伸ばして・・・



見詰める愛しい亡き人の居る場所

二人の愛から生まれた命の逝った場所


あの結いの儀の時に、シーザーが手を伸ばして繋いでくれた事を思い出して


どうかこの手を捕まえて欲しいとの想いを

神となった貴方の元に届くまで、私は祈り続ける


女神として護ってきたこの心のままに・・・



落とした涙が、その空に・・・


貴方の居るその場所に昇って行くのを見届けて

貴方の元へこの想いが涙と共に届いてくれると信じたまま




私も貴方の元へ・・・



行く事を選らんだ私を、どうか捕まえて ___________






「 ハイ、こんな感じ。 」


アフレコの台本をパシっと閉じた近衛監督。

CG合成のされたモニターを見せてくれながら、監督は横でアフレコに入れるクレオパトラの台詞を読んでいた・・・。

これは、京子の声に変わったら印象が違うんだろな。とは思うけれど・・・
横で見ていた貴島も頷いて納得の様子。

へぇ~・・・ってな貴島と京子に、ぼさ~とした俺を置いてけぼりにしたまま、監督はアフレコの説明をしていた。


「 今の僕のタイミングに合わせて、画像が出来たら入れるから。 」


「 ハイ、大丈夫です。それはOKです。が・・・

 でも監督?・・・ 」


京子が指差したのは、その先自分が目を見開いて!と注文出された箇所。
なぜに目を開けたのでしょう?と首を傾げて謎だったのは、自分も なんだろな?と思っていたから。


あぁ、そこ・・・

そういいながら、京子に にっこり微笑んだ。


「 クレオパトラって歴史の中だとさ・・・

  毒蛇を隠し持って自殺するのが有名だよね。  


  そうだから胸に毒蛇を隠し持って、蛇の意思に任せて・・・

  神の元に召すタイミングを、蛇・・・すなわち、エジプトの神の使いに任せる。

  “ シーザーは神と成り・・・”

  ・・・って今もアフレコに入れるものを読んだよ。

  本当はさ、京子さんに本物の蛇でして欲しかったのだけれど・・・


  ・・・やっぱ、嫌だよね。 」



( ハイ、嫌です。)

固まった京子の表情から、はっきり彼女の言いたいであろう心の声が聞こえたような気がした。
監督は妊婦の彼女に、健康上も精神上も良く無いかもな・・・と考慮してくれたのだと感謝する。


「 だから、この部分はまだ保留。蛇の画像は作って無いからさ・・・」


はいは~い。スタッフもここまで~。撤収で、よろしく~とスタジオ全体から、うぃ~す。お疲れ~。パチパチの拍手がまばらに聞こえる中を、キャストもいつもの様に数秒だけパチパチする。



「 じゃぁ、代表的なシーンはこれだけだけど・・・
 まぁとりあえず、今日は・・・みんな お疲れ様。 
 使わないシーンもあるかもしれないかも・・・ 」


語尾が小さく成って行きつつ、監督はCGさんとホログラムさんと打ち合わせ的な事柄が多そうと見えて、そちらに向かって・・・・
・・・というか、そちらの方を向いているけど、何にもないスタジオ上部角あたりの空間を向いている。

考えに没頭してしまったか?と自分の想像の中に引きこもりそうな監督の背中に、それではお先に、失礼します。と皆で言った。

血まみれの衣装はとりあえず脱いでバスローブを着ていたけれど、早くシャワーを浴びたいと思っていた俺。貴島もどうも同じらしい。




スタッフにも監督は、“ みんな お疲れ様 ”と向けていた、ブルーバックばかりのこの映画・・・


どうなるんだろう、楽しみだ・・・ ________







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To be my Grace - OTHER WORLD. XXV 

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監督を交えて立ち回りをしていた。


ふっと思いついた事があった、さっき。
さて、貴島にアドリブで仕掛けるか。そう思っていたので、監督に伝えた。


「 ワイヤー準備の時、血のりを3つ下さい。 」


ん?どうして? 貴島君と敦賀君、胸に一つずつの予定だけど・・・あぁ、いいよいいよ
それじゃぁ、大きさは?と聞いてくれたので、手の平に小さい隠せるのを一つずつと胸に一つ。
と伝えて、貴島には伝えようとすると・・・


「 うん。いいよ。聞かない。アドリブのまま来て。 」


両手で、掛かって来いよ。みたいに・・・そう言ってくれる貴島。監督も・・・


「 じゃぁ、敦賀君にもちろん、任せるよ。 」


ポンと肩を叩かれて、じゃ、リハ・・・じゃない本番かもしれないから、カメラ回して~と言いながら自分の席に戻る監督。その監督を見て貴島が・・・


「 へ~、もう一週間で監督に信頼、得てるんだ。 」


とは言ってくれるのだけれど、あぁ、あのねTragic Markerの時にさ・・・なんて絶対に言えない。
なので・・・まぁ適当に、うん、まぁね。と言って、他の俳優さん達に宜しくお願いしますと声を掛け言葉を濁した。





________ 処は騎兵隊長の邸宅。

パルティア遠征の戦いについての作戦会議で、食事をしながらと成っていた。

騎兵隊長とブルータスと楽しく晩餐をしていると、何のはずみか・・・


「 どういう死に方を望むか? 」


と云う話題に成っていた。
二人とも勇者ゆえ、戦場で美しく散る様に華々しい最後を望むと笑い、ゴブレットを持ち上げて飲み干した。

シーザーは、自分のゴブレットを取り上げて飲み干すと、口を開いた。


「 突然・・・が、いいか・・・ 」


蜀台の灯は ゆらゆら揺れ、シルバーのゴブレットにその温かい橙色の炎を写し燃えている様に光っている。

そのゴブレットに葡萄酒を執事に注がれて、すっと目の前に出された。
そのゴブレットを手に取った時、はっと気付いた。

二人とも自分のゴブレットを飲み干していたはずなのに、この邸の主、騎兵隊長のゴブレットには葡萄酒を注がないままだと。

ゴブレットをテーブルの上に置き直し、すっとブルータスの目の前に差し出して言った。


「 ・・・そう、死は思いがけず、突然やって来るのが好ましい。 」


ブルータスの顔をじっと見詰め続け、フーと、深くゆっくり息を吐き出した。

ブルータスは、もう一度シーザーの前にそのゴブレットを差し出す。


「 これを、我らの誓いの杯に・・・」


シーザの瞳の中に燃える様に揺れる蜀台の灯。その瞳を見続けている。


「 ・・・どうぞ。ブルータス先に・・・」


そう言い微笑んだまま手元をお互いに見る事無く、瞳をお互い見合っていた。

ブルータスはそのゴブレットを取り上げると、シーザーの顔 目掛けて葡萄酒を掛けた。

とっさに横を向いて正面を避けたものの、頬に掛かり滴り落ちる葡萄酒が唇に付いた時、舌で自分の唇を舐めた。

プッっと吐き出し、手の甲で頬を滴り落ちる葡萄酒を拭った。


「 やはり・・・ブルータス。・・・お前もか・・・ 」


二人は同時に立ち上がる・・・・__________






______ 「 カット。 」


いいよ、二人とも。
じゃぁ、血のりとワイヤーお願いね~。


はーい
うぃーす・・・



( さーて、ここからだな。 )

ワイヤーを背中に着けられながら、美術さんに衣装の中に血のりを二人とも入れてもらっていた。

監督が横で、じゃぁ敦賀君。アドリブでいいけど・・・


「 ワイヤーの方向は変えないよ。いい? 」


「 ハイ。もちろん大丈夫です。 」


それじゃぁ、敦賀君は・・・上にひゅっとで、貴島君は・・・後ろにひゅっとね。と指で指しつつ・・・
貴島君は真後ろにエア・マットレスがあるから、心置きなく倒れる様に強めに引っ張るから。
じゃ、よろしく~と言って去る監督を横目に、手の平に小さい血のりを一つずつ付けてもらっていた。




______ 「 じゃぁ、いい?・・・シーン後半。よーい・・・」


カチッ。





二人が同時に立ち上がり、ブルータスがシーザーの腰から短剣を抜き取ると、その胸目掛けて振り翳した。


________ ドン。


シーザーはその短剣を手の平で受け取ると、手の平からは血が滲み出してくる。


「 ハッ・・・」


シーザーはブルータスを見下して笑った。

あっと驚いたブル-タスは手の平を見ていた。そして、ゆっくりとシーザーの顔を見下す様に顎を上げその・・・上げた顔の表情・・・

冷たい笑みをシーザーに向けながら、首をゆっくり傾げた。
そして、静かに言い出す・・・


「 死は・・・なぁ、シーザー・・・」


カッと翠色の目を見開いて、視線をシーザーと向け合い叫けぶ・・・


「 思いがけず突然やって来るのが好ましいと・・・言ったよな!! 」


力と自分の体重を込めて、シーザーの手の平を短剣が通り抜け胸を突き刺した。

それでも尚、手の平に短剣の根元が食い込むほどギリギリと押し付けている。

シーザーは短剣を受けた手に力を込めて、自分の胸から溢れる血が吹き出るのも構わず、押し続けられている力に勝る様に刃の刺さっている手の平で押し返し、胸から短剣をゆっくりと引き抜きながら、反対の手でブルータスの短剣を持つ手首を掴んだ。

でもブルータスは短剣を握った手を離そうとしなかった。


そのままシーザーは刃の刺さった手の平を自ら引き、鞘と手の平の間に出来た隙間・・・その刃を反対の手で握り締め、刺さった手の平を引き抜いた。その刃を握った手にも血が滲み出してくる。

驚いたブルータスが短剣を持つ手が緩んだ瞬間・・・

シーザーはその短剣をブルータスの胸に向って投げ差した。


ピシッとブルータスの返り血が、葡萄酒を掛けられた横顔に飛んできて思わず目を瞑った。

直ぐに目を開けると、短剣はブルータスの胸の奥までグサッと刺さっていて、彼の表情は驚いたまま・・・

自分の胸に刺さった短剣を、ゆっくりと下を向き見届けている。

シーザーも下を向いていて、自分の胸から溢れ噴出す血と、自分の両手からも滲む血を見詰め・・・


「 ハ・・・ 」


低い声で笑い、その両手を・・・

目を開いたまま止まっているブルータスの頬に、ピタピタと軽く叩き付け顔を自分にぐいっと向けて、同じ色の瞳を見詰め・・・

ニヤッと笑った。


「 俺の心。この我が血の溢れる場所に居る・・・」


そしてその両手で、ブルータスの頬に自らの血を撫でつけながら顎を通り、首を絞めた。


「 俺のクレオパトラに恋をした、お前の最後を・・見届け・・た・かっ・・・た・・・」


そう言い残しながら力の抜けていくシーザーは、見詰め合っていた目がゆっくりと閉じられて・・・

首を絞めていた手も緩む瞬間、ブルータスを残った力の限り押し・・・

・・・シーザーは、ひゅっと天に召す様に消えた。



シーザーに押されたブルータスは後ろに飛びながら、目を開いたままシーザーを見詰め続け・・・


「 俺の此処にも・・彼女が居た・・ん・・だよ・・・」


言葉は消えながらその息を止め、消えた。



後に残された騎兵隊長は、わなわなと震えながら倒れたゴブレットに手を伸ばすと
橙の炎が燃え盛る蜀台にその手が当たり、蜀台は倒れ・・・

その橙の炎は、毒の入った葡萄酒に瞬時に燃え移り・・・


シーザーとブル-タスと、二人ともが同じ色の瞳。

葡萄酒に燃え移った炎は、その二人の瞳の翠色に変わり・・・


騎兵隊長の服に燃え移り袖からじっくり焼かれ、袖から自分の方に向かい燃え上がってくる炎を見詰めていた瞬間、ファっと翠の炎が一瞬にして大きく広がり彼の身を包んだら、炎の中にその姿は消えた。






_____ 「 カッ !」



カットがかかり、ぶらーっと上から釣り下げられたまま見ていた俺。

上からだとスタジオ全体が良く見えた。ちらっと隅の休憩場所に居る彼女を見ると、肘掛を枕に身動きもせず・・・頭を伏せて何も見ていないと言った方がよさげな体制・・・。

社さんが掛けたのだろう、俺の大きいバスローブが掛けられているのをみると、ぐ~~・・・とよく寝ていると分かるのは、事情を知っている人にしか分らないと思えていた。


( よかった・・・)

あまり、妊婦さんに自分・・・まぁクレオパトラには夫だけど、実際プライベートには婚約者が殺されるシーンなんて、嘘物とは分っても血まみれなんて見せたくなかった。

思わず・・・ Good Job ! お昼寝よくできました。なんて心で褒めていた。



キュイーンと下ろされていると、貴島はエア・マットレスの上で胸に付いているナイフを取りながらむくっと起き上がった。


「 いい、いい。・・・良かった。二人とも~! さっすが~!」


監督が駆け寄って来て、OKですか?と血まみれの手で親指を立てると、モニターチェック~してっしてっ。と手招きで呼ばれ、CG合成がもう出来ているらしい一つのサンプル合成画像のモニターを、これっこれ~!と見せてくれた。

音楽も入れたから~!といつも敬語でご丁寧な監督が・・・歓喜あふれてくれて、


「 どうもありがとうございます。 」
「 ど~もありがとうございます。 」


と思わず・・・貴島と声が揃って言っていた。

見て見て~!と嬉々溢れる監督に促されてみた画像は、正面の3つだけのあまり動かない画像。
風景も嵌っていて、引きと寄りの二種類が、場面によって手だけのアップから顔に移ったり・・・


「 そう、ここ。 」


監督が止めたのは、手の平で受け取って、貴島が本当に驚いた顔。


「 貴島君の本当に驚いた顔も、こちらのカメラでしっかり綺麗に納まっているし。 」


それとね・・・
こうしたいかな、と思ってさ・・・

そう言いながらマウスを取って207メインカメラの2点撮り、引きと寄りの二つ。
それぞれ見ると引いて二人が映っているものと、貴島のナイフが刺さったアップのもの。

_____ それでね・・・

CG技師が次に映したのは、返り血を頬に浴びた俺のアップと引きの2つ。

_____ ゆっくりフェードを50%ずつ、インとアウトと同じ物を別にして行くとね・・・

その作業をしながら、1秒だけ戻して再生した、それ・・・



「 うわっ! 」
「 おっと! 」


二人で声を上げてモニターを見ながら、顔をとっさに避けていた。

ブルータスの胸に刺さったナイフの返り血が、画面から出てこちらに向って飛んで来て、思わずさっと顔を避けたら、もうシーザーの顔に返り血が付いていた。


「 ぷっ! 」

貴島が笑う・・・


「 だって~、敦賀君。さっき演技中は、うわって声を上げなかったじゃんか。 」


いいの、演技中は成り切っているから。なんて・・・言い訳しながら、お互い避けなくてもいい程、すでに血まみれ&ワインまみれ。

貴島にいたっては、頬をペチペチしたし、両手を広げながらゆっくりと頬から首まで満遍なく血を塗りたくってやったので、相当な血まみれ。

俺もベットリ、ばしゃっと掛けられたワイン・・・に見立てたグレープジュースが、顔から胸にかけてベトベトしていた。


衣装さんと大道具さんが俺達に寄って来て、衣装を脱ぎながらワイヤーの装備も外してもらうと、渡されたバスローブに袖を通しながら監督の話を聞いていた。


後は、敦賀君の姿を本当にひゅっと消して・・・
貴島君もひゅっと消して・・・

ブツクサ言いながら、マウスを動かしてフェードしつつ・・・4秒戻して再生すると、
本当に上に上がりながら、ひゅっと姿が消えた。その2秒後、貴島も後ろにひゅっと消えた。


「 オッケーおっけ~、後は炎の色を調整かな・・・じゃ、京子さん呼んで・・・」


( ん?あれ? )

自分が着ているバスローブを思わず見てしまう。
やっぱり自分のバスローブ。

さっき寝ているキョーコに掛けられてたよな。と思いながら、スタッフが京子を呼びに休憩場所に駆け寄るのを目で追っていた。

キョーコは既に起きていて立ち上がり、メイクも衣装も直されていた。



( かんばれ~・・・それが終わったら、腕の中でどうぞ、思う存分寝てください。 )


心の中で、寝起き顔を直されている彼女を見ながら・・・
そのメイクさんと衣装さんには、妊娠していることを伝えたらしいと安心。

監督の言い訳。本物のクレオパトラと同じ顔料で宜しく。

そんな注文を出されたメイクアーティストは、駆けずり回って天然石から取れた顔料を使って直してくれている。その横の衣装さんとは、コンビを組まされている。

だから安心して、その光景を見ていた。





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To be my Grace - OTHER WORLD. XXIV 

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________ ナニナニナニナニ・・・なになになになに・・・


この貴島の言葉で、かなりの動揺度を感じられる。
二人で誰も居なくなるまで待っている間じゅう、ずっとそれを繰り返しているから、


「 そう、彼女。 」


そう言い返して婚約したと言おうか迷っていたけれど、貴島が被せて聞いてきた。


「 はっ?何時から・・・1ヶ月ほど してないって事は、撮影前からって事だよね。 」


ハイ、その通り。よく気が付きました。と思ってしまう鋭い事。
彼は撮影中も、いつも色々なバックの設定をきちんと思い返して演技する程の視野や思考の広い人だとは、一緒に仕事をしていて思う事がたくさん有る程。

でも・・・続いた貴島の言葉に気付いて、婚約者だと言うのは今は止めた。


「 えぇ~・・・あの女神様は、俺の理想のタイプ~。
 本当に恋ができると思ったのに~ぃ・・・」



( そう、じゃ・・・まだだな。 )

そう思ったのは他でもない。
此処で止めておけば、そのまま演技に感情が映るだろうと目論んだ。

貴島の胸。これから撮影予定のその場所に・・・軽くパンチを浴びせ


「 本当に恋をするのは、影像の中だけにして。 」


悪いね。と付け足して言った。


「 ふ~ん・・・へぇぇ~・・・そう・・・」


俺の目を凝視したまま、今自分が叩かれた箇所を撫でている。
何かを思いついた表情に浮かぶ、冷たい笑い。その笑みに、クッと喉の奥から声が聞こえたかと思うと、俺の目を見詰めたまま言ってきた。


「 じゃぁ・・・さ・・・影像の中でなら・・・?

本気で恋してもいいんだよな。それって・・・」



「 フッ・・・いいよ。 もちろん・・・」


多分意外な言葉だったのかもしれない。でも、京子の為にも俺の為にも彼が演技の中に本気を入れてくれるのならば、芸歴の長い貴島の演技には、俺も京子も引き込まれた方が演じ易いかも知れない。


「 ま。敦賀君も?・・・だよな。 」


その言いたい意味がとてもよく分る俺。なので追加で言葉を返した。


「 そう・・・俺だって今まで、相手役は必ず落として来た。

 あのさ、プライベートがどうのって云うのは、問題じゃない。
 俺だって演技の中で? 本気で落としているつもりだからね。
 ふっ、まぁ・・・かかって来いよ。演技は恋だけじゃないし。 」



「 だろ? 」


貴島が冷たい笑みの中に一言だけそう言い返し、目を見詰めたまま右手で俺の髪を前から後ろに撫で付けた。


「 じゃ。遠慮なく。 」


そう言った途端 貴島の表情はふっと緩んで、何時の間に取ったのか俺の頭に乗っていた金の月桂樹の輪を目の前にちらつかせ自分の頭にそっと乗せた。


「 役が抜けなくなる程、本気でやってもいいんだよな。 」


そう言い放つ貴島。頭にローマ皇帝の証である月桂樹を乗せた顔ですごんで来た。

それを見て・・・・


( ふ~ん、なるほどな・・・)

そんな事を思える余裕の、以外に冷静な俺が居た。

なんで自分がこげ茶の髪なのか、月桂樹が緑じゃないのかが分った様な気がした。
エジプトの象徴の黄金とローマの英雄の証、月桂樹の輪。始めはブルーバックに消えやすいのかな~っと思っていただけで、エジプトとローマの両方の統治者の証としての黄金で・・・

金髪の髪には似合わない。


( ふんふん・・・イコール、ブルータスは統治者に成れないと言いたいのだな。 )

そんな事を思って頷いていた。それには・・・


Palladio  “ 共鳴と統合の二神魂 ”


モニターに流れていたこのバージョンのCM。 



________ 2 TWO in 1 ONE


    2人は、1人


    この2人が一つの命に生まれ変わった

    1人の黒い姿が、求めていた真実の姿

    抉り取った心臓から溢れ漲る血潮の色を、その瞳に映して・・・

    ・・・瞳が見詰め続ける

    求めて止まない・・・快感・・・


    逃げ惑う者どもへ

    恐れる者どもへ


    黒い心が牙を剥く TWO in ONE 21 _________




・・・そう、こんな感じ。


貴島のブルータスとも、同じ色の瞳に、緋色と橙色という大して変わりない赤に

戦闘へ向けるはずの意識は、いつしか妬みに向けられて、攻撃を加えられる瞳の色となる。



そう考えていた・・・




・・・ら、貴島がこそっと言ってきた。


「 じゃぁ、じゃぁ、じゃぁさ。ベッドシーンのアドリブも実は・・・? 」


何でそんな事を聞かれるのか。貴島だって分るだろ本当に欲求不満なんだって、自分から聞いてきた事をもう一度掘り下げんなよな。と心の中で思って、腕を組んで首を横に振っていたら、

あっ、居た~!と声が聞こえて、二人で振り返った。


_____ 貴島さーん、敦賀さーん。ワイヤー準備しますよ~。


「 は~い。 」
「 はい。 」


二人揃って返事をして、返せ。と言って頭から月桂樹の輪っかをそっと取り上げ腕に掛けたまま、貴島の背中をぱしっと軽く叩いたら、ぱしっと同じ様に叩かれた。

二人とも衣装の上を脱ぎながら廊下を歩き出したら、傍にいた女性スタッフに、きゃぁ~!っと真っ赤に成って言われ、こちらを見ているスタッフに向って・・・


「 ふっ。どうも・・・」
「 ふふ。どうも。 」


同じ事を言って、同じ様に微笑んで、同じ様にウインクしていた。




スタジオに戻りセットの端の方で、ワイヤーを止めるパラシュートと同じ装備を付けられていた。ギュッギュッと引っ張って大丈夫か確かめられながら、衣装の方も着せられていた。

傍で貴島も同じ様にされているのだけれど、二人で見ていたのは・・・

ホログラム撮影の方にいる京子の演技。


クレオパトラがプトレマイオス12世、彼女の父である王の死を目の当たりにして、王の標章を受け取る場面の、本番中だった。




クレオパトラのいるその王の寝室は、ブルーバックではなかった。

唯一と言っていいほど、CGが背景に入らないシーンで、違うのは・・・
王の役者が居ない事。

王が息を引き取る場面のそのベッドの上は、シーツが人が入っている様に中にワイヤーで空間が出来ている。その寝室のセットは・・・起源前50年ごろのエジプトの神殿のまま。

王が寝ていると思われるその寝台に向って、一人で京子が演技をしていた。



ホログラムチェック終わりました。入りまーす。

よーい・・・ カチッ




______ クリノンや・・・ そなたに、これを・・・


ホログラムで入る王がその寝台には居ないけれど、声だけは京子のキューに成る様に聞こえていた。この先は、クレオパトラだけの演技と台詞のみ。


「 ひっく、ひっく・・・」


寝台に跪き両手を震わせながら、すすり泣くクレオパトラ。
その手の中には、今 まだ王がしていたばかりの黄金のアスプ、王としての標章を受け取っている。

クレオパトラの髪に風が当たり、ふわっと浮くと長く金色のビーズが編み込まれた髪がキラキラと上から下に向って流れる様に光を順番に瞬かせている。

それと共に王が居るんだろなと思わせていたシーツの膨らみも風でペタンコに成った。


「 うわぁぁ~~! 王様・・お父上さま・・・ 」

クレオパトラはありったけの声を出して叫ぶと、ぐっと涙を堪えて両手で王の標章を握り締め立ち上がった。


その頬は涙の痕を、窓の外に映る満月の灯りに浮かべて、その窓際に歩み寄ると
満月を見ながら手の平で力強く涙の痕を掻き消す様に、一度だけ拭い取った。


「 タクハエト。 こなたは私の乳母。そのまま、どうか・・・

 このアレキサンドリアの王女の側近として、勤めますまいか。 」


クレオパトラは悲しみを糧に、王としての威厳をも受け継いだ。




_____ カット・・・


京子さん。モニターチェック~。その後は待機で~す。

はぁい。と言いながら伸びをして、あくびを殺しているのが分る。

眠いんだろな。とは思うけれどお仕事中。待機の合間に少し昼寝をしたら?と思って社さんを呼び自分の椅子を持って来てもらった。


モニターの中には、ホログラムの王が写りの悪い昔の白黒テレビの様に、ザーザーっと横線が入って映ったり消えたりしている。
王が息を引き取った!と、思ったのはテレビのスイッチを消した様に、王のホログラムがピッと横線一本に成って、中心に光が集まって消えたからだった。

クレオパトラの髪にふわっと風を当てていた部分は、ホログラムの王の手が髪を撫でているところだった。

・・・勤めますまいか。そう言ったクレオパトラは月の影になり、手の中の王の標章は月の明りと同化して、振り返った金のビーズが輝く黒髪も、月の中に瞬く星の様で、思わず・・・

ほ~ぉ~っと、貴島と3人で声を揃えて言ってしまった。



_____ 京子さんOKです。待機でよろしく。

ホログラム合成技師のPC前に居て、少し離れた所にいる監督が声を掛けた。


「 京子ちゃん、お疲れ。 」


俺と貴島の間に立っていた京子に貴島が声を掛けたので、そちらに向かいお辞儀で返す彼女を微笑んで見ていた。


( そうだ、役が抜けてないって事・・・)

さっきの撮影直後、役が抜け切ってないままにし~よぉっと。と自分で思い、そのままプライベートでキスしちゃったけど、それに・・・

その前おでこを付けた時も、お互い自然にキスしていた。

隠さなくてもいいものなのか、どうしようか迷っていたけれど、先輩である貴島・・・サンには、自分から気付いてくれた方が、後輩の・・・俺から言われるよりも良いのだろうと思い始めた。


そう思いながら社さんが居るRen Tsuruga と名前が入っている自分のディレクターズ・チェアを、どうぞ、使って。と親指で差すと、あ~、そうしまぁす・・・。ともう、寝てしまいそうな彼女がそちらに向って行った。


「 ・・・ねぇ、なんで、敦賀君の? 
 京子ちゃんのその隣に置いてあるし・・・」


俯いたまま下から ちょっと低っく~い声で貴島が言うけれど、本当の理由は言えないし・・・


「 あれ? どうして俺の椅子だと思ったの? 」


京子の椅子が隣にある事は、今自分で言った事。指を指しただけの方向に揃っているなら、普通自分の椅子って思わない?と話を変えてみたりする・・・けど・・・
彼女が、はぁ~・・ヨッコラショ。と言って背の高い俺の椅子に、躊躇う事無く真っ先に座ったのには・・・

ブツクサ言っている貴島の背中を押しながら、彼女を貴島に見せない様に肩を組んでセットに無理無理引っ張って行った。





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CM: --
TB: --

To be my Grace - OTHER WORLD. XXII 

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さっき見ていたFinding Beauty バージョンのカインヒール。
京子と2人でセット交換休憩に何気なくキャストが向かう癖の付いている、スタジオ隅の休憩場所。
どうにもこうにも、近衛監督。
Tragic Marker の CMだけ実は流しているようだった。

今さっきの撮影は、息子のシーザリオンをお腹に宿した時だと理解できたものだった。
実際に男女関係にて、お腹に宿してしまった彼女も、画面を見ていて思っていた様だった。

何度も繰り返しCMが流れているので、座らせた実際の身重の彼女の後ろのモニターを見ていたら、繰り返し色々なバージョンが流れてきていて、なるほど・・・・

・・・だったか。

って思った自分。
でもSarabandeバージョンの後に直ぐに流れてきた、モニターの中の自分を見ていて、なにやらの思いが込み上げてきていた。



(・・・復活した心 )

無念の想いを残して死んだシーザーの、その無念はこの愛にが一番だったのか・・・

愛国心と自分の理想を広げたい想いと、彼女との結婚は繋がっているけれど、彼女への本心からの想い・・・恋に落ちたシーザーが自分の恋心も利用するという事なのか・・・

自分が演じなければ成らない、無念が4つもある事を考えると、ど~も難しく考えすぎなのか?と思う。

しんでも死に切れない無念の思いと、ミイラにされることなかった国王の処刑。


復活するな。と言われた様な、でも国に貢献し続ける彼女の純真さには、シーザーも共感しているに違いないと考えた。

だからこそ、周りが見えない程、愛し合っていたのか・・・



フムフムと、なんとなく考えながら


_____ 準備もう少しいいですか~・・・


ってな、スタッフの声が聞こえて京子の腰を抱いて休憩所に行った。



「 じゃぁ、この船旅前のシーンからか・・・ 」


それは、ファロス島に、戦いに向かったシーザーの帰還シーン。

画面の中は豪華船であったけど、セットの中はブルーの箱だったり階段だったり、まぁそんな色んな物が取り払われて、クレオパトラがシーザーを見送った海に突き出た窓から帰還する姿を見るというもの。

船の炎上に海に飛び込んで、ローマの政治に必要なものを守る為シーザーが海を泳いで島に向かうというもの。これはイルカと一緒にヤッホ~とかって泳げるぐらいの水槽で。と聞いていた合成だったので、違う日の撮影だった。


でもこの時、勇ましく飛び出て行ったシーザー。

シーザーは香油が大好きで、敵との戦に赴く時にはその戦闘意欲を高める為に、全身にアンバルという香油を塗らせ、戦闘中、心が折れる事なきようその香りで昴奮させたと言われている。その熱い戦闘中の体温で温められた香油が体中に立ち昇ると、戦意を上げて敵の返り血の忌まわしい匂いを消し去る効果を期待してのものだったらしい。

濃艶な香りであり、甘く、艶かしく、人を酔わせる、恋の媚薬の香り。


・・・って、そんな事と言われましても、嗅いだ事のない俺。

でも彼女は・・・


「 うふふ。 」


椅子に座って俺を見ながら微笑んでいた。


まぁまぁの雰囲気をと思い、香りの伝わらない画面。
でも共演者には香りはもちろん解かり、演技の足しになるかな?とは、自分の演技にも思う事だった。


スゥーっと京子が香りを嗅いだら・・・


「 いつもの蓮の香り・・・」


「 そう・・好き? そうだ、香り・・・」


最近気持ちが悪かろうと、香りに対して敏感な彼女に合わせて、自分が好きな香りのトワレもボディクリームすらも着けていなかった。

( だって寝起きに発覚した その事だったので・・・)


「 うん。そういえば・・・大丈夫みたい。 」


そう微笑みながら上半身裸で大好きな香りのボディオイルを薄く塗っていた。
つやっ艶~!と上半身を見て両手にオイルを擦り合わせ、背中に薄く塗ってくれる彼女の手の体温を感じていた。


あったかいな~

そう思ったのは、やっぱり妊婦さん。
体温が高いらしい、そのぽかぽかのお手手で優しく塗ってくれる。


「 あっ、敦賀君。準備OK? 」


メイクさんも衣装さんも寄って来て、あ~敦賀君の香りがする~~・・・とウットリしているその声に、背中のぽかぽかお手手がぎゅいっとツボを押してきた。

油断していたので、敵に刺されるとはこういう事だな。とも・・・
メイクさん達がウットリしてくれている間に背中に寄り添い・・・


「 だって、この香りに包まれて、愛されてるって感じてたんだもん。 」


そんな事をぼそっと背中に寄り添って言われたら・・・

ぎゅ~って抱きしめてしまう。


(・・・まぁ、さっき腕を組んで我慢したけど・・・そこまでならばいいか。 )

本当ならばそのまま連れ去って、もっと愛してあげる。って言いたくなるじゃないか。と思うも出来ない撮影所。


何で出来ない。


「 はいはい。お仕事中ですよ~・・・」


腕の中から彼女の声が聞こえ、はい、そうです。と自分でも頷き、抱きしめていた腕を放した。

目を瞑り、ふ~ぅ・・・と冷静になろうと思いながら、メイクさんにシュッシュと霧吹きを掛けられてお仕事がんばります。と演技に向けての戦意を表に試みた。



________ セット準備OKで~す。
________ は~い、こちらもいけま~す。


2つのセットから、スタッフの声が掛かると・・・


_____ はい、敦賀君もOKかな?


こちら側でも、最後に衣装さんに着替えさせられて、頭からも水が滴る男に成った。




「 それじゃぁ、それぞれセットに入ってください。 」

監督からの声に、別々のセットに入っての同時撮影に成った。



いいかな・・・


________ 「 よーい・・・」


カチッ・・・




クレオパトラが深刻な面持ちで見詰め続ける窓の外・・・

愛する人が向かった先の水平線には、陽が傾いて、ただ一本の緋色の線が伸びているだけ。
その緋色に染まる色の海には・・・

赤い物が海水に混じり、縞の様な幾筋もの線を波状にゆらゆらと動かしていた。

クレオパトラは自分の瞳の色の海に起こるこんな現象に、緋色の夕日が完全に消えても、その色が月明かりに浮かんでいるのに はっと目を凝らしていた。


「 どうかご無事で・・・」


シーザーの置いて行った黄金の月桂樹の冠を胸に抱き、青い海に揺られる緋色の縞は、戦闘に破れた者達の血の色だと気が付いて震える瞼に涙を流すのはまだと、堪えていた・・・時だった・・・


________ コンコン


女王様・・・


ドア向こうから声がしたと振り返るとそのドアの向こうから、喉が張り裂けんばかりの大きな声で聞えてきた。

_____ 我が軍。大勝利でございます。

    
その声を聞いてそのまま膝から力が抜けた様に、へなへなとクレオパトラは座り込んだ。



目を瞑ると見えてくる・・・


あの愛しい人が向かう姿。
勇気と自信に満ち溢れ、自分の元に必ず帰って来ると約束してくれた勇ましい姿。

涙が嬉しさで込み上げてきたけれど、悲しくないのに泣きはしないと、女王として国の勝利をも祝う気持ちを持たねばと目を瞑り、自分の喜びの方向を変えようと努力する。


_____ クレオパトラ様。


お付である乳母のタクハエトの優しい声もが、ドアの外に聞こえ・・・


_____ シーザー閣下がただ今、こちらへ向かっているそうですよ。


その声に、はっと目を開けて自分の腕の中に残る彼に抱きしめられていた証である、シーザーの香りを胸一杯に吸い込みながら、窓の外に顔を向けた。


その先には・・・


先頭に愛しい人が、自分の兵を後ろにたくさん連れて、こちらに向かってくるところだった。


海で戦ったのだろうか・・・


そう思わざるを得ないほど、シーザーは香油を塗った肌から玉の様な雫を弾かせて、髪からも雫を滴らせながら歩いていた。

装備の全てを外した姿に、鎧兜の重みで沈まない様にだろう。と考えられるのは容易だった。

その強靭な身体の肌から、滴り落ち、香油の弾いた玉の粒の様な雫・・・



自分の瞳の色と同じと、亡き国王も、国民も、そして愛しい今窓から見える人も言ってくれていたその蒼い海の雫・・・

海の中から守りたいと想う心が、祭儀神である我がイシス神に伝わってくれたと信じたい。

クレオパトラはバルコニーに出ていると、津波の様に聞えてくる雄叫び。そして死者が出ているのであろうと思われる、血生臭い海からの風の音と共に聞えてくる、金属武具の打ち合う音を聞いていた。

ただただ その音と匂いの中に、ひたすら祈り続けたクレオパトラ。
心配していたのは、自分の国の兵に市民も、エジプト我が国の為に戦に出向いたローマ軍の兵士達にも、そして もちろん・・・

  ・・・心から愛しい人・・・


全ての人にイシス女神として見守りたいと祈っていた。

その緊張が突然緩んだのか・・・

愛しい人が先頭に立ち ここに向かってくる姿を見ていてた。

玉の様な蒼い海の雫を滴らせるその水滴は・・・
緋色の水平線が消え、空に星が煌き始めたその星の様に月の明かりに輝いて
しなやかで強靭な肌からはじけ飛ぶ様に、星をその後ろに纏って見えていた。


マントを着けていない・・・


戦に出向く時に着けていた、緋色のマント。
今の姿は、緋色のマントの代わりに弾け飛んだ雫が作る 星が作ったマントを靡かせ、こちらに急いで来る姿。

シーザーの置いて行った彼の黄金の月桂樹の冠を胸にぎゅっと抱きしめると、シーザーの大好きな香りも自分の周りに立ち昇っていて・・・

堪えていた涙が止め処なく溢れてくると、今まで見えていた勇ましい姿が霞んで見えなくなっていた。


_____ 女王様。シーザー様はご帰宅ですが、
   港にこんな物が流れ着いておりました。が・・・



「 入りなさい。 」


動けない程気が緩んだのか、シーザーの黄金の月桂樹を胸に抱き、涙の溢れる海の色と同じ瞳をドアの方に一瞬だけ向けた。

埃と砂にまみれたエジプト軍の指揮官を引き連れて、タクハエトが部屋に入ってくる。

その間もクレオパトラは、窓の外のシーザーの姿を見続けていた。
疲れた様子と喜びに勇んでくる姿と・・・そして、傍に近寄ってきたシーザーの表情は遠くに見えた姿とは違い、勝利に歓喜している様な微笑みは皆無だった。

その姿と表情の違いにクレオパトラは、彼の心に何か引っ掛かっているのだろうと察知できるほど、数ヶ月という短いけれど甘い夫婦生活に彼の心を感じる事が出来ていたのは、国を考える女王としてからの経験ではない・・・ただ1人の異性を愛する一人の女性としてのものだった。


乳母が引き連れてきていたドアの傍で跪き頭を垂れている指揮官。
指揮官が部屋に入ってくる前に、その手の中に持っている濡れた物は、ハッと目を引く物で、指揮官が広げて見せる事無くとも、何であるかは判っていたけれど・・・


「 どうしました? それを・・・」


乳母と指揮官は2人で、その濡れた物を広げ始めた。

その広げたものは・・・


無数の矢に襲われた証拠。たくさんの矢に狙われ穴がたくさん開いている、シーザーの緋色のマント。
海から上げられたそのマントは重そうに水を含んでおり、絞るなどという行為をしたら、シーザーに殺されてしまうのを躊躇ったのろうと察知して見えるほど、ぼたぼたと海の水滴を落としていた。


赤い・・・


自分が嗅いだ血生臭い戦の海の香り。それを思い出して・・・
赤い縞の出来ていた波間を思い出すと、滴っているその水滴の色にも納得が出来るほど、その緋色のマントは血を含んだ海水を滴らせていた。


「 あぁ・・・」


命からがら船の上での戦闘から抜け出し、それでも指揮をとり勝利に導いてくれたシーザーの、エジプトへの愛を感じ取って、クレオパトラはまた涙に眉間を寄せていた。







_____ 監督、カットかけます?

_____ いや、このまま回してみて? CGの方は?重ねられる?

_____ はい、大丈夫っすよ。今のところ・・・


一つのセットの中から出ていいのかどうなのか躊躇っている敦賀君に、指でクレオパトラのセットの方に入る指示を出した。

頭からポタポタと水滴を落とす ずぶ濡れの敦賀君は、さっと顔にへばり付いている前髪を両手で後ろにかき上げプルプルと左右に頭を振り、自然に戻した。


( う~ん・・・麗しいとは・・・こういう事か・・・)

カメラが向けられていないのに、その端にいるだけでも存在感に光っていると思いながら見ていると、隣のクレオパトラのセットの端にスタンバイしたので、目で合図し指で位置を指示した。

そのクレオパトラのセットの方・・・






_____ こちらをいかがされたら、よろしい・・で・しょう・・・


「 そのような物は、即刻処分を・・・」



クレオパトラの涙の溜まった目には、緋色のマントの向こうに見えていた。


_____ コツ・コツ・コツ・・・


後ろから掛けられた声と足音。エジプト軍の指揮官とクレオパトラの乳母は後ろを振り返えると、
ドアを開けたままの部屋に、雫を滴らせながら入ってきたシーザーの姿に、跪き頭を下げた。


「 それでは、シーザー閣下の申し付け通りに・・・」


クレオパトラが乳母たちに声を掛けても、頭を下げたまま。
その頭を下げたままのエジプト軍指揮官の前にシーザーは立ち、指揮官の肩に手を置いた。
ビクッとした指揮官ではあったが、優しく置かれたシーザーの手に、その顔を上げた。


「 申し訳ない。 」


_____ いえ・・・


この会話の意味が、クレオパトラにはマントの処理だと思っていたが、続けられたシーザーの言葉は、クレオパトラの方に視線を向けて話された。


「 エジプト指揮官長である、クレオパトラの共同政治統治者。
  弟君のマグス・プトレマイオス13世王は、今だ行方不明の故・・・」


_____ 存じ上げております。
   我がエジプトを守ってくださったローマ軍には、心よりお礼申し上げます。
   つきまして、マグス国王の生死が判りましたら・・・


指揮官の言葉は乳母も伝えられていたのだろう。
乳母も顔を上げると、そこに居た指揮官、それにシーザーも、皆が窓際にいるクレオパトラに視線を向け、

そしてシーザーに至っては・・・

離れたその場所から、クレオパトラに跪き頭を下げた。



「 プトレマイオス王朝・王となるクレオパトラ女王后妃。
  これから、我がローマとの共同統治の表明を国民に・・・」


えっ・・・


言葉に詰まったクレオパトラではあったが、窓から見たシーザーが不安な面持ちで素直に喜んでいないと感じていたための違和感は、弟を失った事だったのかと察知した。
またシーザーにとって、エジプトとローマの共同統治者としては邪魔であったはずの幼い弟。
その死を喜ぶなどという事をしない、敵でなければ花も切る事が出来ない彼の心。
クレオパトラには血の繋がった家族である事・・・
素直に喜んではいない表情が、本心からのものであると感じていた。


「 で・・は・・・」


言葉に詰まったクレオパトラの表情を感知して、シーザーは立ち上がり傍に駆け寄った。

知らぬ間に両手を伸ばして駆け寄っていたが、クレオパトラの前に座り込むと、その両手で抱きしめる事を躊躇っていた。
戦闘のままの自分の腕の中に抱きしめて、いつもバラの香りのする愛しい人を汚したくはないという思いからのものであった。

濡れたままの自分の衣服を着替える事もなく、居てもたっても居られず真っ先に向かってきた事を後悔したのは、血生臭いまま王の前に現れるのには非常識かとも、女性の前であるという事もだったけれど・・・

愛しい彼女の元に真っ先に飛んで帰ってきたかった事は、自分の心が抑えられなかった勝手な行動を産んだ事に、指揮官としての感情の抑揚への考察、己の感情の抑制ができぬものと見なされはしないかとも・・・


でも・・・


差し伸べてしまった両腕には、クレオパトラの方から飛び込んでシーザーに抱きついた。
シーザーは、血のついた海水で濡れている自分の胸の中にクレオパトラが顔を埋めたら、その胸に温かい水滴が溢れてきたのを感じていた。

嗚咽を我慢し涙だけを止め処なく溢れさせている・・・

自分の腕の中・・・

自分の胸の中・・・

躊躇っていた両腕を黄金の編みこまれた黒髪ごと抱きしめて、その頭に唇を寄せると、帰還して初めて微笑んだ。

泣く姿を誰にも見せない様にと、子供の頃から我慢し続けた事は、生まれながらに持った王としての威厳。
女王として・・・ 1人の女性としての感情を抑える事をし続けたクレオパトラの涙は、誰にも見せてはいけないと胸の中に頭を抱きしめた。


抱きしめた腕の中の香りが・・・


ミルラというミントの入ったバラ風呂につかり豊かな香りを芳せる、いつもの愛しい人の香りではなくて・・・

自分が抱いたままのアンバルの、甘く濃艶な香りのままであった事に・・・

彼女も心は戦士と同じ、ゆったり優雅に風呂に浸かるなどせず、ずっと心を戦場に向け続けてくれていたのだと嬉しくて、抱きしめていた腕に力を入れて体ごときつく抱きしめていた。


「 今はまだ・・・なにも言うまでも無い。
  ・・・判らないから・・・」


国民への表明の事を言ったつもりだったその言葉は、自分が感じる気持ちと同じで、彼女の気持ちは同じでいてくれているのだろうと思い・・・


黒髪の上から抱きしめていた片腕を緩め頬に手を添え唇を重ね、クレオパトラからの言葉を塞ぐ様に・・・

約束どおり もう一度この場所に帰還できた喜びは、言葉にできない想いがあって
自分が還ってきた時に胸の中に落としてくれた涙は、自分へのものだと感じると同じ・・・

言葉に出して伝えられない想いであると思うから

十分に心が伝わり、無理に言葉にする必要はないと言いたくもあり・・・

それすら、言葉に出来なくて・・・


シーザーが抱き寄せた腕をクレオパトラの髪の内側に回すと、長い黒髪は黄金のぶつかり合うシャラっという小さな音を立てながら、その心地よい音と共に肩からゆっくりと滑り落ちる。

金色の光のカーテンの様に輝いている黒髪が、ゆっくりと2人の重なる顔を隠していった。


窓の外に昇った大きな満月が放つ金色の光の中に、その光を全身に浴びたシーザーの香油ではじかれた玉の様な海の雫は輝き落ちながら・・・
クレオパトラの髪の黄金は、表の月光にもシーザーからの輝きにも、共鳴する様に金色に輝きだして・・・

ローマの象徴である黄金の月桂樹の冠を持ったままのクレオパトラの手が、愛しい人の頭を抱いた時、その頭にそっと乗せた冠の金色の光は・・・

後ろの月光に重なって・・・

クレオパトラが着けているエジプトの黄金の冠も、シーザーの頭に乗せられたローマの黄金の冠も、一つの月の明かりに溶け込むように姿を隠すように輝きだして、ただ・・・

同じ金色の輝きだけを、満月の眩い光に消された星のない空に、涙と海からの雫を煌かせて・・・

その2人を包む水の輝きは、その空に広がって行く・・・

漆黒の夜空に星を広げて行く様に輝きだした水の粒は、砂漠に無くとも必要な水。

新しい暗黒で未知の未来は、星のない闇の夜空の様で、新しい闇の世界が始まったのだと・・・

金色の光に包まれたままの二人の影は、金色に輝く満月に溶け込んで姿を消し、月の陰の蒼白い光には、想いだけが煌いていると・・・

その表の姿を隠して、二人の気持ちだけは心の中に潜めても、同じだと2人には感じあえていた。






_____  カット 


「 OKだよ~。敦賀君、京子さん、モニターに来る?・・・」



その声が遠くから聞こえる様に、カットが掛かって止まっても、目は開けたけれど唇を重ねたままで居た。
京子の方も目を開けて見詰めてきたので、片手でそっと瞼を隠し、ちゅっと音を立てて唇を離した。

セットの向こうでザワザワとしたスタッフの話し声を聞きながら、抱いたままでいる。


「 あれ? どうした?・・・」


彼女が腕の中から頬に手を伸ばし、そっと指で頬を撫でてくれるのだけれど、そのままじーっと見詰めていた。


「 ん?役が抜けないの? 」


ずっとキスシーンが続いたから?と言う彼女の言葉に思う。役が抜けていないわけではなかったが・・・
ジーっと見詰めて止まったままでいた。


_____ おはようございます・・・

聞いた事のある声が、スタッフの撮影直後のざわめきの中に微かに聞こえ、そちらに意識が向いていた為、キスを離さないでいた俺。


「 ・・・ん~~、なんだろう・・・」


どうでもいい言葉を腕の中の彼女に残しつつ、冷たい床に座らせていた事にも気付いた為、役が抜けてないということにしようかな?なんて思う。


「 キャストの前では、きちんと蓮って呼んで。 」


はいはい、大丈夫です。と腕の中で敬礼した頬にちゅっとキスをしながら、座ったままの体制から膝の下に腕を通し抱き上げて、よっこらしょ。と立ち上がった。


「 ふふ。重い? 蓮、私・・・」


よっこらしょ。と思わず俺が言ったからか、お腹の中に子供を授かって間もない大して増えていない体重でも、自分で体の変化に気付いているからと思える言葉。首に抱きついてくる彼女の微笑みが、自分との子供に喜びを感じてくれているって感じて、そっと下ろし立ち上がらせてから、もう一度抱きしめて・・・

見詰めてくれる瞳の中に自分が写っているのを見たら・・・

無意識の内に唇を重ねていた。




キスの前、瞼を閉じる瞬間には・・・




彼女の瞼もゆっくり閉じたから . . . ____________











それから少し経ち・・・









_____ 敦賀君、いいよ~。


「 ありがとうございます。 」


びっしょびしょの衣装を脱いで、メイクをやり直しもしてスタジオに帰って来ると、休憩場のモニターを見ている人に声を掛けられた。


「 なに?敦賀君、欲求不満? 」


そう声を掛けられたのは・・・



「 えっ・・・」


( 一瞬、誰?と思ってシマッタ・・・。)

今までの俺の撮影をみていたらしい、他のスケジュールが終わって待機していた、メイク後の翠の瞳のブルータス・貴島。


_____ おはようございます。

という声がスタッフのざわめきに混じっていた時には、声で気付いたけれど姿を見てはいなかったので、おろ?何処?っと頭を捻っていたところだった。


この撮影で貴島とは初めて会ったので、貴島のメイクに、へーーっと思ってマジマジと見てしまった。

とりあえず彼からの質問には、自分の演技に何か気付いたのかと思い、疑問に疑問で返す事にした。


「 何で、そう思った? 」


と聞き返すと、ん~だってさ~・・・と話し出した俺の演技。
彼はさすが仕事に誇りを持っている役者。モニターに囚われず、実物の演技を見てくれていたらしい。


「 剣をね、ひったくる・・・怖えっ!って思った表情と、振り下ろして止めて・・・
 ふっと緩んだ微笑みのギャップ?
 あっ、あの使いの役者。本当にビビってぎゅーっと目を瞑ってたよ。 」


ヘ~、本当?と返していたら、実は少しだけ・・・本当にイライラしていた俺に気付いていたと思っていた。


「 なになに、どこから見てた? 」


そんな自分の疑問を投げたのは、自分でも そうでもなかった結いの儀の撮影と、今のシーン。
以外に落ち着いてたよな、自分。と思っていたし・・・でも、その前を知ってるとすれば、
ずいぶん前から居たのに姿を見ていなかったからだった。


「 来た時、まず挨拶に顔を出したら、敦賀君が兵士に怒鳴っててさ・・・んで、
 メイク終わってスタジオ入りしたら・・・京子ちゃんの上で叫んでたし
 今度は衣装が出来て返って来たら、今もなかなかキスを離さないし・・・ 
 あれ・・・ めずらしいね。敦賀君が、共演者をなかなか離さないのって。 」


( なるほどな。要所的な箇所だけしか見てなかったのか・・・。)


貴島が肘で小突き、耳元に寄って小声で言ってきた。


「 なに?敦賀君、最近してないの? 」


うんまぁ・・・その通り。彼女が妊娠したと分ってから、その気は起きない。だから、1ヶ月ほどゴブサタなのは確かな事。
おもわず、アドリブでも・・・クレオパトラの上で叫ぶことを思いついてしまったほど、彼女の上に素肌で体を重ねていると我慢できそうに無くなるほど、キスも離れがたし・・・。

思わず言いそう・・・いや、今がチャンスかもな。と思って同じ様に貴島の耳元で返答した。


「 実は・・・1ヶ月ぐらいしてない。 」


1と人差し指を目の前に出して、唇に持っていったら・・・えっ彼女いたの?と聞かれた。
なので、視線をそのまま、ホログラムの撮影セット側に入っている京子に移した。

他の人には気付かれない様に、目だけを貴島を見詰めた後に動かした。

えっ!・・・えっ!・・・っと二度見している貴島。


「 えぇ~・・・・」


っと大きな声を出しそうに成っている貴島の口に人差し指を当てて、うるさい。と反対の腕で肩を抱いてスタジオの外に出ようと引っ張った。

案の定・・・傍にいたスタッフ達に、しーっと言われて、すみません。と二人で小声で謝りながらモニター横目に廊下に出て行った。




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CM: --
TB: --

To be my Grace - OTHER WORLD. XX 

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_________ その影像 



始まりは、大きな満月 ・・・・・





「 この月は、戦いに出向く前のですか? 」


「 そうだね。それと同じだけど・・・
撮影していないこのシーンの前からの続き。 」


へぇ~・・っと監督の言葉に思っただけで、全員がモニターに集中していた。


眩しくなって消えた画面に五彩トパーズの宝石を張り巡らせ宝石で繋げられたカーテンが、シャラシャラと開けられた先に見えるのは城と同じ様に贅に尽くしたものだった。
紫檀の壁に埋め込まれたターコイズやラピスラズリ、高貴の色を表す様な紫色の世界の中に、バラの花びらが空中に浮いている。音楽を奏でる楽隊の動きにも、合わせて踊る踊り子の動きにも、人の周りに浮いているバラの花びらは微かにくるくる舞っていれど、下に落ちる事は無かった。

端で芸人たちが宝石の原石でジャグリングしている宝石の原石は、磨いたときの輝きの色を浮かぶたびに煌かせ、石とは重さの違うバラの花びらも一緒に空中でジャグリングしている様に動いている。

重さに関係無いとは、常識ではありえない無重力。
体験した事無いので、ほぅっ!とジャグラーを見ていて・・・いや、ジャグリングしていたキャストも自分で言っていた。


_____ さぁ、皆の者。
        我が女王クレオパトラ様への祝杯を・・・

_____ ローマの者達よ。
        シーザー皇帝閣下に厳格な意の元に祝勝の心を・・・ 


先導を切って杯を上げたその二人だけ、エジプトの蒼い光が首飾りに掛かっていて、ローマ指揮官の軍服の緋色の2色が際立っている。

色鮮やかな船内の情景に、そこに佇むたくさんの人は黄土色。
皇臣と指揮官のこの2人も蒼と緋以外は、砂漠の色で・・・
色の付いた写真が時を経て薄く色が変わってゆく様に、それはエジプトの砂漠の一色でその場にその昔、こうした人が居たと思える。

頭を下げる皆の中心に座るシーザーとクレオパトラ。この二人は白黒で、クレオパトラは黄金の黒髪をシーザーは黄金の冠が辺りを照らす香油の灯りで輝いて、その光を2人の周りにだけ輝かせ、砂漠の黄土色の人達と輝く黄土色として浮かんでいた。

シーザーがクレオパトラに手を伸ばし肩を抱くと、クレオパトラは寄り添って微笑み、お互いに顔を向けて見詰め合っている。


見詰めあったまま二人が同時に手を伸ばすその先に黄金のゴブレットがあるけれど、シーザーが重ねて握ったその手に2人は手を握り合いそれぞれの愛に酔いしれる様で・・・

シーザーがクレオパトラを抱きしめると、クレオパトラは逞しい胸の中に身を任せ、二人が微笑み見詰め合い続け・・・


白黒の彼らが瞬きを擦る度に、それぞれ消えかかりまた点いて、消えては点いてを繰り返す昔のテレビの様に成っていた。二人が一瞬で砂嵐の様にノイズと呼ばれるドットに成る・・・

砂嵐と共に現れた二人の影は、その砂漠に吹く黒い影の作る風に、電波ノイズの砂粒を吹き飛ばされ姿を現した。

吹き飛ばされた砂は、暗黒の世界に吹き飛ばされて、幾数かの黒く透明な影が縦横無尽に飛び回り起こす風に広がって行き、はるかに広がる満天の星空を創り上げた。

無数の星が造り上げるナイルの天の川。そこに佇むクレオパトラとシーザー。

幾数かの黒い影が起こす風の中に、砂が風に吹かれる様に星は浮かび上がって遥か上空に浮かび上がってゆく。


クレオパトラがシーザーの黄金の冠に目をむけると、月の光を映す冠の煌きは・・・
光の粒となって星の様に、シーザーの身体を沿って天の河に溶け込んでゆく。


シーザーは抱きしめていた腕でクレオパトラの黒髪を内側からそっと開くと、月の光を反射した黄金の黒髪から、星が落ちる様に煌きを下に移しながら、クレオパトラの肩から髪がカーテンの様に滑り落ちると、黄金の煌きは天の川に溶け込む様に広がっては・・・

2人の輝く黄金、でもそれは砂漠の色で・・・
砂漠の色は光と成り、黒い影達が起こす風にゆっくりと浮かび上がって、その空に向かっていた。

2人が見上げた黒い宙の彼方・・・

暗黒の闇の世界に、2人の砂漠の輝きの粒達が星の様に広がり・・・

どこまでもどこまでも高く煌いて

どこまでもどこまでも遥か遠く

行く先が解からないほどの永遠の闇の空間を、見詰め合う2人。


シーザーもクレオパトラも見上げ続けるのは、永遠の闇に輝きを齎してゆく浮かび上る輝きで・・・
2人ともがゆっくりその永遠の闇に輝く光たちを追って、その空に手を伸ばしていた。

シーザーの上に伸ばす手の回りに浮かび上がってくる星粒は、指を一本一本順番にゆっくりシーザーが微かに動かす間をすり抜けて細かく散っては浮かんで行く・・・
手の平で仰ぐ様に仄かな風を起こすと、黒い影はその手の回りから黄金の輝きを残しては、また指の間から新しい星が生まれて空間に浮かんで行った。

両手を前に揃えて伸ばすクレオパトラの手の中にほわっと大きな光の雲が浮いていて、指を大きく開いた両手につかめないほど広がる光を押さえる様に手を合わせつつ、指の間から漏れた光が星となってその空に浮かび上がって行く。

二人の手の中から溢れる光は、2人が重ねた手の中で一つの光に成った。

黄金に輝く光は、シーザーがその周りを星の溢れる手で愛でると、色を変えて蒼水晶の様に限りなく透き通る蒼に変わって往く。

その色は月の裏である地上からは見えない月の陰の色で、シーザーがクレオパトラの腕を撫でる様に伝ってゆくその間に、表の月光の黄金から裏の月光の蒼い輝きに変わり、シーザーがその光をクレオパトラの胸に当てるとクレオパトラの体の中に吸い込まれて消えた。

クレオパトラの微笑みはとても優しく、シーザーが耳元に顔を近づけて囁くと、クレオパトラは優しい笑みのまま、シーザーの頬に頬を寄せた。

2人が共に目を瞑る微笑みの中を、影の起こす風が砂嵐の様にたくさんの星が舞い上げて、2人は星屑の中に姿を消し、また浮かび上がる、白黒テレビの砂嵐の中に消える様な2人の姿は、星の輝きの砂嵐と重なって見え隠れしていた。


その中で・・・

手を合わせて見詰め合う二人が、ゆっくり顔を向けていく先・・・


シーザーとクレオパトラの背中には、黄金の黒髪からの光の粒と、黄金の冠からの光の粒が手前に河と成って流れて来るように降ってきて、画面から光の粒がはみ出てくる。

星の河の中に押し寄せられる光景から、天の河」の下に逆さに聳えるブラックホールの様なピラミッドから、今まで吸い込まれて消えていた黒い影が飛び出てきては、二人の前を通り過ぎる。

画面の外で目の前をその影が通り過ぎると、背中を向けたクレオパトラとシーザーの前にいつの間にか現れていた竜巻。

砂漠でよく起こる雲の無い大きなつむじ風の様な竜巻は、周りの星達を巻き上げて天空の彼方に吸い上げている。幾つかの黒い影が引き起こす、その竜巻は3つ・・・

クレオパトラとシーザーが同時に手を上げ始め、前に掲げると

一番初めの竜巻は裾野を広げた角錐のピラミッドの様に、その姿を天空に引き込みつつ、その他の竜巻も同じ様に星の粒を引き上げてピラミッドの形を形成してゆくけれど、砂嵐の中に紛れる様に、雨と風と砂に朽ちてゆく遺跡の様に、完全な姿を残す事無く天空に吸い込みながら時間を掛けて3つのピラミッドが姿を変え続ける。


漆黒闇の天空に吸い込まれて往く星の粒を二人の目が追う様に、遥か彼方の天空を見詰め続けて
クレオパトラの長い黒髪からも、シーザーの頭からもその間星の川は流れ落ちて、天の河に溶け込みながら天の河は上空に引き込まれて行く。


天の河から3つの黒い影がヒュヒュと真上に勢いよく、ピラミッドを成形した星粒たちの中心から飛んでゆくと、その風に煽られる様に天の河全ての星が真上に引き寄せられ、全部の星が流れ星の軍隊と成り天空に向かって一つの滝となって上に流れた。


微笑んだままのクレオパトラとシーザーの向ける天への祈りは、一つの同じ幸せを求めるだけの様に、白黒の2人が霞む金の光の砂嵐の中で、二人から溢れる輝きの陰までも星たちと共に天空に吸い込まれ、まっ暗な暗黒の世界になった途端、2人は白黒テレビの様に横に走る電波の線となり、白黒の電波砂嵐のシャドーに隠されて・・・

2人がお互いの胸に手を当てると、白黒の、2人の体の中で蒼水晶の光がぼやけて光り始めた。



クレオパトラとシーザーが求める幸せは、月の影、月の裏側にある輝きの色・・・

国王と皇帝の、輝く様な表。その金色の光の陰で

心の中は純粋な愛を求めている、愛に飢えた者達であった。

陰として心の中に潜めていた自分の本心を、分かち合えるお互いに出逢えた事を

最後の滝を見るまでの旅の時間の中に、お互いにお互いを見つけ合えたのだろう・・・


電波砂嵐の二人以外、暗転の闇の世界の中に、見えるものは何も無かった。
ただの黒一色の中、白黒の点いたり消えたりを繰り返す横線ノイズの2人。
その姿が透明に限りない程近い蒼の光が、二人の体から滲み出ている様に・・・

2人の姿がドットノイズの砂嵐になると、ブツっと電波が途切れるように消え、闇の黒以外何も無くなった。

ただの真っ暗・・・
それはスイッチを切ったテレビの様で・・・

その何も無い画面から、ぼわっと浮かび上がってくる光景が見えてくる。

色とりどりの宴の中に、豪華な船内もそこに居るたくさんの人たちも、砂漠の砂嵐の色ではなく、画像鮮やか色彩鮮やか、最新テレビ、HDハイ・ディフィニションの様に鮮明に色鮮やか。でも・・・

その宴の中心にトランスポーテーションした様に、遅れて現れたシーザーとクレオパトラの2人だけは、白黒のままで・・・

2人が目を瞑り唇を重ねている。


楽しげな音楽や ざわめきは、だんだん聞え始めてくると・・・
シーザーとクレオパトラもその色を、その場に溶け込む様にだんだんと色鮮やかに色付いて、宴の中心の人と成っていた。


クレオパトラの黄金を編みこんだ長い黒髪が肩から滑り落ちて、揺れている・・・

宴の広間の五彩トパーズの宝石のカーテンも、ジャラジャラと流れる様に揺れながら閉じられた。

揺れたままの五彩の宝石の間から見えるのは・・・

浮かんでいただけのバラの花びらが、床にひらひらと舞い落ちて大広間のカーペットとなり、最後の花びらが落ちきるまで、五彩の宝石は揺れ続け、エジプトの象徴の色を輝かせていた。






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