mimi's world * HOPE and DESIRE

_______ BE-lie-VE * be-LIE ve * believe...the SHAMs for heart healing * mimi's world-7 _______

Myth. BLUE BELL - Act.4  

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Myth. BLUE BELL -ACT 4-



mimi’s Image Music * Finding Beauty / Barbers Adagio / Requiem for A Tower / Chi Mai / Return with Honor









________ カタッ、ギィ・・・



怜がグラスを持ったまま、床から天井近くまである両開き窓を開けた。


「 ほら、見て。 」


怜がグラスを持った手で指しているその先には・・・




潮の風と共に運ばれてきた、微かな群生する花の香り。そして・・・


・・・思い出す・・・・


何かの懐かしい想いと共に・・・

自分の胸の内に痺れの様に溢れ出す、解らない感情



でも・・・・


とても優しくなれる心の中が・・・

自分にはどうしてなのか分からないまま、少し離れた所から、この胸を焦がす光景に視線を向けた。



夕日が全ての世界を焦がす色に染めてゆく・・・



高台の岬の向こうに見える波の白さは、赤く染められていて

波飛沫が舞い上がる度、飛沫から離れた小さな雫の粒が輝くのは、時間と共に深くなる赤。


「 綺麗だろ。 」


怜の言った一言に立ち上がり、二人でバルコニーに出た。

その光景に怜はグラスを持ったままの手で、海を指したままでいた。


「 本当だな・・・」


東京では感じる事無かった夕焼けの色に、普段は東京に住んでいる怜もこの景色が忘れられないと静かに語り出していた。


「 なるほどな。だから月一度ぐらいこちらに顔を出しているって訳か。 」


ん~・・いや、まぁ・・・言葉を濁しつつも、直ぐに怜は・・・


「 まぁ・・・ちょっと疲れることとかもあるって事。 」


いいよな、お前まだ独り者だし。と付け足された言葉には、分かる様で分からない既婚者の悩みがあるのかと思っていた。


「・・・綺麗なままの、け・・ いや、綺麗って・・いいよ・・・」


ぼそっと怜が独り言の様に言った言葉は、自分の耳には海風に遮られてよく届いてこなかった。
石造りの柵に寄りかかり、風を避ける様に海の方に背を向けて、怜と斜向かいに彼を見ていた。


夕日に染まる海の光景が美しいと感じている彼の、海を真っ直ぐに見詰める横顔。
持っていたグラスを傾けて、グラスの中のブランデーの色さえも夕日に染まっている様だった。

________ カチッ


夕日の色を映したグラスを二人で合わせて音を出した。


「 乾杯。 ・・・ってもう、飲んでるけどな。 」


ふふっと笑みを向け合った俺達。
普段 東京でも会っている俺達には、この乾杯が何にかは分からないけれど、背中の方から吹いてくる潮風に前髪が目に掛かり咄嗟に瞑った。

グラスを持ったままの手の親指で、前髪を掻き分けた。



瞼を開けた時に・・・

もう一度、自分の胸の内を焦がし始めた感情が戻ってきて・・・

自分のグラスを自分の目の前で揺っていた。



夕日に染まったグラス越しに、高原の先の緑の森に掛かった夕焼けの色・・・



振り返った時に見た、海風に目を瞑っている怜。

夕日に染まった彼の横顔に、この場所が本当に好きなのだと思うけれど・・・

目をふっと開けてグラスの中のブランデーを一気に飲み、ショットグラスをコンッと音を立てて、石造りの柵に置いた友人。

ずっと見ていたけれど・・・

その時の怜の表情は、夕日に影になって見えなかった。



でも自分が見たのは . . . .______________


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Myth. BLUE BELL

― 鈴鳴り岬の向こう ―


Act.  4  Scene 鳴海一族



『 予感 』            


Dawn over the sea Act 4©


mimi’s Image Music * Requiem for the Tower by ESCALA





怜の持ったグラスを透き通ってきた、赤い夕日にブランデーの朱。

彼の見詰める先の海には、彼に何か深い思い入れがあるのだろうかと疑問が湧いていた。


鈴鳴り岬・・・

そして、その海・・・


彼の妹、蝶子の言っていた事を思い返しながら、ブランデーを飲まずに見詰めていた。

“ あの岬には近寄るなと、お父様に言われています。 ”

はっきりとそう言った彼女。
自分の泊めてもらっている客室からは見えない・・・あの岬。

今自分が見詰める先の森には・・・

昼間、白猫に連れて行かれた光景が目に浮かぶ。


海からの潮風に、群生するあの花の香りが仄かに感じているような気に成るのは、あの光景を見たからなのだろう。
どんなにたくさん咲いていたとしても・・・

バラの様に芳しく自分の存在を主張する様な花ではなく、ひっそりと幾重にも連なる様に咲くあの青紫のリンドウの花からは、ここまで香りを届かせる様な自己主張をしない花。

木漏れ日の中に蒼く煌いていた輝きは、上を向いた空の様に澄んでいて聖地の様で・・・
儚くも一生懸命咲いている花の群れの中には、足を踏み入れる事を躊躇うほどだった。


一気にブランデーを飲み干した怜は、白い石造りの柵からグラスを取り上げて、フーと深い溜息を漏らしていた。

俯きながらくるっとこちらを向いて、部屋の中に戻るように歩を向けていた。

両開きの窓枠に手を掛けた その後姿のまま・・・


「 おかわり。 」


そう言って・・・ペシッとドア枠を叩き、部屋の中に入って行った。

徐々に深まる赤に染まりゆく空には一番星が輝き始め、紺色の東の空が深く色を伸ばす夕焼けに覆い被さり始めて、この友人の子供の頃からずっと好きなのだろうと思える光景を、満天の星空を鏡の様に映しだす闇の夜に変えて行く。

その光景が脳裏に焼きついたまま育って来た友人が付いた深く静かな溜息は、この美しい綺麗な光景に対するものなのだろうかと・・・それならば・・・


でも、何を考えているのかは・・・


聞いてはいけない様な気にもなるほど、誰にだって親しき中にも踏み入れて欲しくない心の中の領域があるのだと思っている。

彼の表情は・・・

赤い黄昏の影に隠れ・・・その後も目を瞑っていて・・・そして俯いていて・・・

自分からは全く見えなかった。



怜の後を追う様に中に入ると、彼はポンといい音を立てて蓋を取り、ショットグラスでは足りなかったらしい、タンブラーにトクトクと音を立てながら注いでいた。

友人の垣間見せた溜息の理由を考える事は止めて、楽しい時間を過ごしたいと話を変えようとしていた・・・・


「 ねぇ、そのタンブラーって、バカラ? 」

「 いや。どうだろう? 江戸か薩摩かなんかの、切子じゃない? 」


クリスタルじゃないと思うけど。と言いながら、グラスを持ち上げそのグラスの周りを見ていた怜。自分は話しかけた後・・・
窓のドアを閉める為に、自分が持っていたショットグラスを直ぐ側の深い窓枠に置き、両手でドアを閉めていた。そして振り返った時もまだ、怜はグラスを見ていた。


「 ふふ。 もういいよ。なんでも。 」

「 だよな。酒が不味くなる。 」

「 ただね・・・綺麗だな。って思っただけだから。 」

「 そういえば、余り気にした事はなかったな。 」


グラスの事を気にし出した怜が、平た目の口の広いタンブラーを持ち上げて、中に入っている朱色のブランデーを窓の方に向けて見ていた。
切子の模様の一つ一つの断面が窓の夕日の光を反射しているのは、様々な違う赤。

おー、綺麗~!と独り言の様に言う友人を見て、ふふっと微笑みながら窓枠に置いた自分の飲みかけのショットグラスに手を伸ばしかけた・・・時・・・


窓の外は光源が、水平線に熔ける様に消える最後のラインとなって伸びている。
最後の光が、この一日を名残惜しげに消えそうに成っている光の中に・・・

自分の窓枠に置いた朱色のブランデーが、その光を吸い込む様に・・・

そして・・・

夕日の深い赤が・・・

ブランデーの朱色に・・・

差し込んでいて・・・




赤く高温で、勢い良く朱色に燃える炎の色を・・・

長く・・・

長く伸び行く様に、刻々と伸び行くその赤い影が・・・




・・・暖炉の中に写っていた。



その赤い影は、水平線から太陽が消えた瞬間、深い紅色に一瞬変わり
光源の無い窓からの夕闇に包まれて、淡くグラスの周りだけをぼんやりと赤く染めた短い影に変わっていた。



「 ねぇ、見て・・・」



怜のその言葉にはっとして、深い窓枠に置いた自分のショットグラスを取り上げ、彼の方に振り向き直し近づいた。

なぜだか、胸の中が震えていて・・・
自分の記憶の中の懐かしい思いが、何かの鍵になりそうな気配と、引き金となってこの・・・
鳴海家・・・いや・・・

“ 鳴る ” の文字が付く自分の家系にも・・・

何も起こらないまま、ここに来た目的を少しでも解決できればいいと思い始めていた。
 


「 ほら、グラス越しの風景が、だな・・・」



こっちからこっちに移すとさ・・・そう言いながら、切子模様の入ったタンブラーを、海の夕日に透かしながら・・・

ずーっと、水平線を辿る様に、そしてその先に見える小さく影を写している島の上に掛かる赤紫色の夜と夕暮れの境目の様な空の光に透かしていると、切子模様の輝きが色を変えていて・・・

怜は・・・

その手を止める事無く、闇に包まれ始め 星がちらほら輝きだした青紫色の空・・・

朝、白猫と行った森の上の空にタンブラーを透かしていた。


「 なっ。万華鏡みたいじゃん? 」


怜の言葉の通り、色々な色の光の花が、動かす度にグラスの中に咲いている様だと思う。


「 花の色ってさ・・いろいろあるからな・・・・
綺麗だと自分が思う花は、人それぞれなんだよ。 」


そう言い切った怜だった。そして自分が見たのは・・・

青紫色の空の色に切子の模様が輝いている断面・・・
怜の後ろから覗き込むように見ていたその色に、本当だと声を掛け 2,3歩離れた横に立った。




その時・・・




正面からでは見えなかった、横から見た朱色の液体の入ったタンブラー越しでは・・・

切子の花模様が青紫色の花の様に光っていて・・・

ブランデー越しの森に・・・

青紫色の花模様の一片だけが、紅色に輝いていた。


森は・・・


グラス越しではない窓に目をやると、青紫色の空がやみに包まれかけていても、その正面を夕日の最後の紅色に染められていて、自分が見た森の中の紅色のリボンと・・・

この窓から今見える、通用門から出て行ったと思われる、庭の木に消えた紅色のリボンが同じ色だったのかどうか・・・

昼と夜と光度の違いに・・・

目を瞑って思い出していた。



手に持ったままのショットグラスを傾けて、中に入っているブランデーを飲んだ。


「 ねぇ、あれさ・・・」


自分が向けた視線の先は、暖炉の方で・・・
肖像画のピカピカに磨かれた銀のフレーム。その前に置かれる大きな燻し銀の花瓶。


「 ここの家系って、銀に関係ある・・の・・・・」


________ チリン・チリン・・・チリ・・・・


「 鈴の音?・・・・」



自分がそう言いかけた時、怜がポケットに手を入れて出したスマフォ。
着信者の名前を確かめて通話を触っていた。


「 もしもし。今さ剣と・・・」

そう話し出した彼から少し離れて、暖炉の方に寄っていき
暖炉の上に今朝と同じ様に手を滑らせながら、猫が擦り寄っていた燻し銀の花瓶の部分を見ていた。

太陽の光に当たりそこだけ輝きが違っただけの燻し銀の花瓶は、暗くなった外からの光ではなく、室内の平均的な明かりには、その違いは見せてくれなくて・・・
暖炉の上を触った自分の手を見ると、もうすすも付いては来なかった。

指を擦り合わせてもう一度自分の手を見ながら、反対の手に持ったショットグラスの残りを飲み干した。

空になったショットグラス・・・

いわゆる透明なガラスに、今 自分が暖炉の上を触った方の手で持ち替えてぐっと握り締め、肖像画の周りに室内の平均的な照明が当たりピカピカに輝く銀の前に置き、透明なガラスに自分の手の跡が黒く付いているか確かめた。けれど・・・

そのグラスには何も黒い指紋の様なものは写されていなくて、自分の付けた唇の薄い跡だけを少し白く写していた。


・・・あぁ、剣? いいよ・・・


怜が電話の相手と話しながら近寄ってきたので、唇だけを動かして、誰?と聞く。
奥さんの緑さんだったらな・・・・とは・・・・

そんな違う事を思いつつも、返ってきた怜の言葉は小声でもなくて・・・


「 あぁ、山延だよ。 」


なんだよ。と言いながら、怜の電話を受け取った。


「 もしもし、山延? 」


話し出した自分には、彼の病室での原因の分からない失望と遣る瀬無さもが浮かんだ、やつれた病床の顔が思い浮かぶ。

でも自分の思い浮かんだ顔の表情とは違い、とても元気そうな声に嬉しくなった。

親友の気にしている事は、蝶子さん。

その事ばかりを自分に聞いてくる。自分は今独身で居る事も、彼には気がかりな様子だった。

_____ 剣に一目惚れするヤツは、ごまんと見てるからな。

その山延の言葉に、今朝の蝶子さんが自分の手を握ってきた事を思い返していたけれど、それを言う事ももちろん無い。
自分は彼女には、何も感情は無い。それよりも、親友の・・・

彼女と結婚したい理由。

確かに彼女は美少女で、家系も申し分ない。そして彼女に恋に落ちれば・・・
もうあとは、全てまっしぐらに ただ前進あるのみなのだとは自分でも思う。

もしも自分だったら、ただ1つを除いて・・・・


「 あぁ、蝶子の事? コイツが聞きたいの? 」


ゴクッと喉を鳴らしながらタンブラーから唇を離して言った怜。
そう、怜とも義兄弟になる。でもそれが嫌なわけでは無い。

自分には自分の父の昔の事業。華族である鳴海家の土地売買の件で、ぽっと出の成金扱いされ鼻を掛ける素振りもされなかったという事への、鳴良家の屈辱的なものがある。

彼女に恋に落ちたとしても、それは・・・

自分にとって人生を苦しめるものなのだと思うから、鳴海家の者には特別な恋愛感情は持たないと、恋愛感情の前に心の中に一線を引いている事も事実。


当たり障り無い様にやんわりと、そして病床のあの原因不明の落胆した顔を思い浮かべ、何も心配する事はないと優しい口調で、彼女には特別な感情は自分には無いと、それでもはっきりと告げた。

電話を怜に返して、傍にあった椅子に座った。

暖炉の真横に置かれた、両肘掛け付きのアールデコ調の椅子は、今朝 白猫が暖炉の上に飛び移る前に座っていた椅子。

自分が着ていたのは朝のまま、ワークパンツの様なラフな格好だったから、猫の毛が付いても構わないと思っていたけれど、怜が山延と話しながら後ろを向いたので、ちらっと自分の服を見ると、カーキー色の服に白く長く細い猫の毛は、ただの一本も付いていなかった。


暖炉の周りの すすといい、椅子の猫の毛といい、全てこの部屋の中が綺麗に掃除をされていた後だった。





Bluebell wood color Act 4©




mimi’s Image Music * Chi Mai by ESCALA







________  にゃぁご・・・


カリ・カリ・カリ・カリ・・・・




ふと気付いて閉ったままの窓を見た。

格子のかかった古い木の窓枠を引っかく音と共に聞こえた声。



「 鈴。 」


________ チリ・チリ・チリ・チリ・チリ


ブルブルと頭を揺すって、首輪に着けられた鈴の音を響かせている・・・

・・・私の白猫。



フワフワの真っ白い毛は、頭と背中が少し黒く薄汚れていた。

窓を開けて手を伸ばすと、自分から胸の中に飛び込んでくる。
今日は薄い色の振袖を着ているから、自分の黒髪を束ねていた幅の広い紅色のリボンを片手で解き、背中の薄汚れている所に巻いた。


「 どうした? どこを歩いてここまで来たの? 」


窓を閉めながら話しかけると、ゴロゴロと喉を鳴らして目を瞑っている。


「 ふふっ。なぁに?安心した? 」


自分の腕の中で疲れた様に眠ってしまいそうな鈴。頭も少し黒く成っていたから、優しく汚れを掃う様に撫でると、ムフ~っと落ち着いたような息を漏らしながら、ずしっと腕の中に重みを感じる。

力を抜いて目を瞑り、安心しているその仕草に可愛くて・・・

掃いきれなかった汚れはそのままに、その頭に頬を寄せて抱きしめた。


身体をゆっくりと揺すりながら、自分も頬を寄せたまま目を閉じて、鈴の喉を優しく撫でると、耳に近いところでゴロゴロと小さく鳴らしている音が聞こえてくる。


鈴の体からは・・・


リンドウの花の香りがする。


緑の森を思い浮かべて、森の中に群生するリンドウの蒼い花の中を抜けてきたんだと・・・
猫の獣道は、人が通らない場所。かなり花の咲いた、あの中を抜けてきたんだと、鈴の散歩道に想いを馳せていた。


窓の外は今日も太陽が燦々と照っているのだろう。

鬱蒼とした森の背の高い樹々に、背の高い竹林の、形の違う葉同士が重なり合い隙間をお互いに埋める様に、屋敷の周りを暗くしていた。

風が吹く度に木漏れ日だけが、外の世界を明るく照らし出してくれる・・・
その一瞬の風景を見ては、明るい気持ちにその都度させられて、元気に成れる。

この猫の冒険の先にはどんな世界が広がっているのだろうと、目を瞑りながら考えていた。



________ コン・コン



ドアを叩く音に無視をして、窓の傍で鈴を抱いたまま目を閉じていた。



_____ 鈴音様。入りますよ。


優しい声が聞こえてきたのは、私が物心付く頃からずっと傍で仕えてくれている、老婢の乳母。
母の代わりとなって自分の傍にずっと居てくれる、自分の祖母の様な年だけれど、背筋もしゃんとして、この家に仕えているメイドに女中を取り仕切っているほど頭の切れる乳母は、私にとても優しくて大好きだった。


「 鈴音嬢ちゃま・・・あら・・鈴とご一緒でしたか。 」


ドアを開けて入ってきた乳母に、目を開けて微笑んだ。

ドアの向こうの長い廊下の先にある窓から、ちらほらと木漏れ日が光の線を浮き上がらせては消え、消えては浮き上がらせてを繰り返していた。


自分が背にした鈴が入ってきた窓からは、明るく太陽が差し込んで、窓の格子模様の影を部屋の中に写していた。



Other house Window Act 4©




大きな銀のお盆に、白陶磁器のティポットとティカップ。三段重ねの銀のティスタンドの上には、プチケーキやスコーンに、乳母お手製の野いちごのジャムと牧場から直接この家に運ばれてくるクロテッドクリームが添えられている。

頬を寄せていた腕の中の鈴は、フンフンと鼻を動かす音と共にぎゅっと抱きしめた腕から逃れようともがき始めた。


「 鈴。 クリーム? 舐めたいの? 」


頬を離し顔を覗きこんでいると、乳母は、それでは鈴の体に障りますよ。ただ今ミルクをお持ちしますので・・・といいかけた乳母は、私の髪が解けている事に直ぐ気が付いて・・・


「 髪結いも お呼びしましょうね。 」


そう付け足した言葉と共に、さっとメイドに伝えに戻った。
幾時も無く直ぐにミルクの入った皿を持ったメイドが、乳母と一緒に部屋に入って来る。


「 さぁ、鈴ちゃんはこちら、鈴音 嬢ちゃまの横で召し上がれ。 」


優しい微笑みと共に、メイドが引いてくれた椅子に手を差し出して、その傍に近寄るとミルクの入った銀のお皿めがけて鈴が胸から飛び降りた。

差し出された乳母の手に自分の手を乗せると、振袖の袖を踏まない様に持ってくれるメイドが近寄ってきて促されるままに椅子に付く。


小さくピチャピチャと音を立てて飲む鈴の胴体に自分の紅色のリボンが回されている事には、メイドも乳母も一目瞭然だった。


「 どうかされましたか? 鈴は。お怪我でも?・・・ 」


ティポットからお茶を注ぐメイドが声を掛けてきたので、素直に、いいえ 少し汚れていたものだから。と自分の着ている着物の話をした。

乳母がミルクを舐めている鈴の頭も汚れている事をじーっと見ていて、私はその光景の手前に・・・


木漏れ日が時々窓から差し込み、古い木の格子窓の陰の中

ティポットからの紅茶の色は透き通った紅色で、白陶磁のティカップに湯気を上げて注がれる綺麗な色を見ていた。


「 あらあら、何処へ行って来たのやら・・・」


紅のリボンを、ミルクを飲んでいる鈴から解いた乳母は、体が汚れているのを見つけると紅茶を注いでくれていたメイドに、鈴音お嬢様の給仕を終えたら直ぐに洗ってくださいな。と伝えている。


________ コン・コン。


「 鈴音さま。 ご来客です。 」



開け放したままのドアを叩き同時に声を掛けた他のメイドの後ろには、1人の男が立っていた。


________ チリチリチリチリ・・・



「 あぁ、たくと さま・・・ 」







Blue bell flower Act 4©








________ チリーン・・シャラ・シャラ・・・・



思ったよりも明るい木立の森の中。木漏れ日の中に浮かぶように現れた・・・

青紫色の花の世界。

清々しい空気の中に仰ぎ見上げた空の色よりも、深く蒼く煌いたリンドウの広がる世界の中に、鈴の音を響かせて自分の眼に映った幻想の様な光景・・・


長い黒髪を束ねている、紅色のリボン

その長い髪は振り返って弧を描くと同時に、白い羽衣の天女がそこに居たかの様な幻の様な姿。

鈴の音は・・・

・・・猫の首輪に着けられたものではない。



猫の鈴の音と違う音・・・そして・・・

その音と共に目にした・・・
大きな瞳がこちらを向いて、一瞬だけ目が合ったことを思い返すと、あれは・・・

白昼夢ではないと思わせた。



天女が消えた青紫色の花の世界の向こう側は・・・

木立が深く入り組んでいる様で、段々と奥に沿って暗くなっていてその先を隠している様に思えた。その先は入ってはいけないという気にさせられる様な、神聖な世界に続いているとさえ、この現実をしっかりと見ろと子供の頃から教育されて育って来た、今は現代社会の裏までも知っている自分に思わせていた。


今見た幻想・・・だったのか・・・

現実だったのか・・・


胸に刻まれた新しく何かが芽生えたような感情を心に感じても・・・それが何か分からないまま来た道を辿り始めていた。



その時、鈴の音は・・・

自分の耳に入っていなかった事にも気付かないまま、ただただ明るい森の中を歩いていた。




しばらく歩いていたら・・・・



________ チリチリチリチリ ・・―――


連続した猫の鈴と同じ小さな音にはっと気付いた。

シンと静まり返った 無 と呼べるほどの蒼い世界。
香りを漂わせる様な花ではないのに、単一種で群生した蒼い世界の芳しくも愁いを感じた香りを胸に虜にさせられていたままの自分に届いた、潮の香りと波の音。

もう直ぐ海に出るのだろうか・・・

波音と共に鈴の小さな音に周りを見ると、白猫が居なかった。



そして森に振り返っても白い猫の様な動くものは何も見えなかった。

ぐるっと視線を360度回していたら・・・

ちらちらと光る小さな光が、星の瞬きの様に輝いていた。


でもその光の色は紅では、無い。


確かに聞こえていた鈴の音に、辺りをキョロキョロ見回してみても白猫は何処にも見当たらなくても近くで鈴の音が成っているのだから、直ぐ傍にいるのだろうと思っていた時・・・

突然・・・



________ ガオン、ガオン、ブルブル、キーーッ!!


騒がしいほどの何台ものバイクの音が、波の音も鈴の音も消し去っていて
森をもう少しで抜けるその開けた先に見えた、灯台。



light house Act 4©



mimi’s Image Music * Requiem for A Tower by ESCALA







_____ タクト・・・マタセタナ ・・・




・・・・・チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ

チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ
チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ・チリ・・・



鈴の音が頭の中をずっと回り犯していた _________________









stairway Act 4©





「 あぁ、じゃぁ そろそろ・・・」


怜の電話の着信音が鈴の音の様だった事に、昼間の事を電話を切った怜の背中の一点を見つめたまま思い返していた。


「 どうした?剣・・・? 」


目が合ったと同時に、いや・・・と一言だけで視線を逸らせていた。



________ コン・コン


どうぞ~。と言う怜の声に、ドアを開けたのはメイドで・・・


「 旦那様がご帰宅されたので、そろそろご夕食をと取次ぎに参りました。 」


あぁそう。じゃ行くって言っといて。と怜が言うとメイドは、かしこまりました。とだけで下がっていった。


「 じゃぁ、着替えてくる? 」


怜が腕を組んで首を傾げた。
怜を見ると彼もシャツの袖を捲り上げたまま皺の寄ったシャツだったし、自分も昼間のラフな格好だったので、参議院議員を務める彼の父、そしてこの鳴海家の荘重でもある人には、いくら鳴海の自宅とはいえ失礼だと思った。

2人で廊下に出ると、客室の並ぶこの階に人気は無くて、大きく緩やかに弧を描いた階段の下は・・・

普段は東京の議員会館傍にある自宅で過ごしている鳴海氏の帰宅に、てんやわんやの騒ぎをしている様なざわめきが聞こえていた。

自分の泊めて貰っている部屋まで2人で歩きながら話していたのは、東京での事。


普段は怜も東京で、鳴海氏の秘書の傍ら、鳴海一族の持つ証券上の企業の社長を務めている。

自分の父が会長となった時、自分に譲られた社長の椅子。
今は自分も事業コーポレーションを取り締まる社長としてのポストに居て、怜とは・・・

お互いの社長としての付き合いから始まった友人関係だった。


山延は自分たちの会社に、それぞれ両方とも取引があった会社の重役である。

後見として若く社長というポストに付き、自分と怜がなんだか同じ様な境遇の跡取り息子だよね。と山延が気さくに言って来た事もあった。
怜と父関連のパーティで会った時は、お互い猫を被った様な状態だった事とそれに・・・


「 ぷっ! 剣も怜も、普段はそうじゃないだろ? 」

と・・・

山延を間に交えての事業取引会議の時に、思わず3人で笑ってから始まった付き合いだった。
重々しい歴史を背負った血筋を持っているにも拘らず、それには拘りの無さそうな からっとしてて気さくで・・・そして・・・

何時も何処でも一目を惹き、一目置かれている怜。

たくさんの花の種類が束ねられたアレンジメントの中で、いつも主役という存在の薔薇の様に・・・

華やかな印象をも持ち合わせた怜。

存在感は持って産まれて来たもので、どんなに着飾っても、どんなに装ってみても、それは努力では創り出せない雰囲気というもの。

彼の妹の蝶子には・・・

怜の様な存在感は自分には、見受けられなかった。
薔薇の様な怜と、何かが違う蝶子。でも薔薇の様に華やかに、いつも中心で有りたいと願う・・
違う花なのだろうと思っていた。

山延が、蝶子さんに関心を深めるのにも、薔薇の様だと言った事にも・・・
自分には疑問符であったけれど、答えは・・・


もしかして・・・・・



怜が山延と電話で話していた間に、ふと気が付いた1つの事の様な気がしてきた。
でもそれを山延にも、怜にも聞くのは今はまだ、憚れる気持ちがただの自分の思い過ごしであったら良いとさえ思い始めていた ___________ . . .





それでさ~。と他愛無い東京での自分の部下の話や、議員会館での役に立たない議員のオヤジの話をし出していた怜に、東京で・・・と話し始めた彼の話にふと気が付いた事を聞いた。


「 そういえば、緑さんは? 」

「 あぁ、緑? 今、東京。 ここにはさ・・・ 」


言葉を濁した怜には・・・

既婚者でないと分からない。と言う様な理由があるのだろうと思い、楽しそうに話してた顔から自分が聴いたその一言に微笑みが消えた怜には、もうそれ以上聞かなかった。


「 じゃぁ、また直ぐ。俺も着替えたら、誰かを呼びに寄こすから。 」


夕日の光景の中に影に成った怜の表情と、目を瞑ったままの海風を浴びていた横顔と、夜に成り行くほうを俯いて向きながら直ぐに背を向けた・・・

怜の表情が見えなかった姿に・・・



夕日をタンブラーに透かして、万華鏡の様に花の色が変わると、そして・・・

“ 花の色は、みな誰もが人それぞれの好みだ ”と言った時の、怜の顔は・・・

同じではないと思いながら・・・

ただ一言



「 あぁ。 」


そう言っただけで、いつもの屈託ない微笑みを返してくれた怜に背を向け、部屋のドアノブに手を掛けた。






Dining Room Act 4©



mimi’s Image Music * Barbers Adagio for Strings By ESCALA








迎えに来た女中の後を付いて階下に降りると、階段の下の長椅子に怜が座って待っていた。


「 お待たせ。 」


そう言いかけながら残り10段ほどの階段を降りていると、怜は立ち上がって階段下から階段の上を覗き込む様に寄ってきた。自分の先を歩いていた女中に、母さんは?と聞いている。
怜の質問に女中が返した、奥様はお先に着かれています。との返答にはさほど気にしていなかった。


「 じゃあ、父さんも? 」


長く広いホールのように開けた廊下を少し急ぎ足で2人で並んで歩き、俺達2人の後ろを付くように歩き出した女中に振り返る事も無く聞いている。


「 はい。旦那様は奥様より先に着かれました。 」


「 そう・・・ 」


ただ一言だけを返した事に少しの違和感を持ったまま、ドア口に立っている二人の女中に開けられたダイニングルームの両開きの扉を入って行った。




昨晩と同じ部屋であるダイニングルームに入ると、長く細長いダイニングテーブルの一番先、窓を背にした方に鳴海氏が座っていて、ずっと離れた反対側の端に大きな肖像画の掛けられた壁を背に夫人が座っていた。

もう2人は先に食前酒であるのか、ワインと少しの前菜を食べ始めていた。


「 すみません、遅れました。 」


ドア口で頭を下げてそう挨拶していると、パシッと肩を叩く怜は、なーに言ってんだよ。お前の方がうちの客だぜ。と言ってくれているけれど、そのままスタスタと自分のいつもの席なのだろう怜の後を付いてゆく事無く鳴海氏の前に行き、ただ1回だけ父の主催していたパーティで会った事がある旨を丁寧に告げ、初めましてと言われる事を避けた。もちろん、自分の事など覚えては居ないと思い、恥を鳴海氏に欠かせない為に挨拶に付け足した事であった。

鳴海氏は・・・


「 あぁ、覚えてるよ・・・」


その返してくれた言葉と共に向けてくれた顔は、怜が時々する商用の笑顔に似ていた。

その気配を感じ もう一度頭を下げて、数日滞在させてもらう事にお礼を述べると・・・


「 あぁ、うちのが先に、こちらに泊まる様にと勧めた事も知っているから。 」


その言葉に頭を上げると今度は・・・


怜が、山延と俺と3人で居る様な笑顔を見せてくれていた。
それに・・・

妹の蝶子。

今朝 彼女が自分と内緒話をする様に顔を寄せて話していた時の笑顔にも似ていると思いながら、もう一度頭を下げたのは・・・


自分の微笑む顔も、きっと・・・

父の面影を映しているのだろうと思えたからだった。



「 おーい。剣。もう十分いいから。 」


ここ、ここ。と言いながら怜は、自分の座っている真横の席を手で叩きながら呼んだ。
怜に促されるままその席につくと、長いテーブルの真ん中で自分の正面には大きな絵画が掛けられていた。

その正面である真ん中に誰も座ってはおらず、父親寄りの3分の1ほどの位置に自分たちとは向かい側である席に蝶子が座っていた。

夫人は鳴海氏が帰宅しているにも拘らず、ただ無言で・・・昨晩と同じ席に着いてワインを飲んでいた。



「 何飲む、剣? 俺は・・・」


テーブルナフキンを膝に広げながら、そう自分に言いかけた怜。
自分に話しかけながらもすぐ側に付いているメイドに、ダブルショットでスコッチ、18年物の、そうだな・・・それに南極じゃないのって、何ある?フィンランド?そんなスコッチの種類に年代に氷の選択までしているところを見ていると、怜自身は何も思っていなさそうであっても、華族としての家庭に育ってきた血統書付きの伯爵血筋を垣間見せられた様だった。

自分の自宅にも家政婦は数人いれど、普段家族での食事はこんなにも・・・晩餐。と呼べるようなものではない。ただの一代で築き上げた父の功績だけの家庭とは違うものだと感じていた。



_____ カチャ、カチャ・・・



シン・・・と静まり返った空気の部屋には、それぞれに付いているメイドが居て、そのメイドのアシスタントも居るし食事をサーブしてくれるメイドも専属に居て、飲み物を持ってくるギャルソンまで居るし・・・

何人もの人が同じ空間に居るのに・・・

それに何より、鳴海家の家族が集まっているのにも関わらず、誰も口を開く事無く無言でシルバーウェアーを動かしてそれぞれが食事をしていた。


・・・で、さぁ・・・


話を隣の俺にだけ聞こえる様に少し小さめの声で話していた怜以外の声は、誰の声も聞こえない。ただ、相槌を打つだけの自分の返事に、普段東京で居る時と違うぞ。と肩を軽くパンチされる。それが切欠の様に怜は、直ぐ傍の自分専属のメイドに向かい・・・


「 ちょっと何か、ピアノでも掛けて。 」


静か過ぎる。うちは。と言っている怜に頭を下げたメイドは、その後ろに小間使いとして控えているメイドに向かって言付けた。それではピアノの弾ける者を寄こしますとまた怜に伝え直す。直接話すことも出来ないメイドに、専属のピアニストまで居るのかと・・・無言で自分のグラスを取り上げた。



________ カラン・・・


怜と同じダブルショットのスコッチに、フィンランドの氷河の大きな一粒の氷が動いた音。

グラスを持った手の人差し指で氷の先端を押さえ、グラスに口を付けた。
怜も同じ様に飲んでいて、氷に着けていた指を怜は ちゅっと音を立てて唇に付けていた。


その怜を見ていて・・・


自分はグラスをテーブルに戻しながらも、目を離す事無く怜の方に向いていた。
母親寄りの椅子に座っている怜。

自分の視界の中に入っていたのは・・・

夫人の後ろに掛けられた肖像画。



「 こら、怜。はしたないですよ。 」


その夫人の声を切欠に さらにそちらに顔をおもむろに向け、マジマジと肖像画を見て・・・

・・・気が付いた。





肖像画の人は・・・同じ・・・





・・・では無いかと思い始めていた。


昨晩は客用の今であるあの部屋には行かなかったから、マジマジとダイニングに掛けられた肖像画に気を取られる事も無かったし・・・

何よりも、夫人と顔を合わせる事を極力避けて、あまり夫人の方を向かなかった事。

だから今朝も何も気が付かなかった。のと・・・今朝の自分は・・・

暖炉の事しか、その後 頭になかった。




Picture frame Act 4©




mimi’s Image Music * Return with the Honor By Will Joseph






ピアノの音がダイニングに、いつの間にか流れていた。
広いダイニングの中に置かれたグランドピアノの前にいつの間にか、誰の言葉も気配も崩さぬ様に、そっと弾き出していたのだろう。

自分の知っているその優雅な曲は、終わりかけのフレーズに差し掛かっていた。



「 そうそう、この前・・・。 」


東京で落ち合う時の様に話し続ける怜。
あの後また違うヤツを呼び出して家で飲み始めて・・・等というその会話は俺達にしか もちろん分からない事なのだけれど・・・

怜のメイドも自分に付いてくれているメイドも皿の進み具合を覗きながらタイミングを見計らい、怜のフォークを置いた位置でまだ残っていても、もうそれには進まない。と云う怜の癖すら見ている様で、怜のまだ少し残っている食器を下げるメイドに怜は話を聞かれない様になのか一度止めた。

その時に・・・

話し続ける怜にはいいタイミングかと思い、何気なく質問した。



「 ねぇ、あの肖像画の人物って誰? 」



自分は意味が分からないから屈託無く、それに全くその質問にはなんとも思わず・・・

ただ、怜が階段の下から上を除いた時に聞いた事の違和感も、もしかしたら含めていたのかもしれない。とは・・・

怜の返事を聞いてから気付いた事だと知る事も後に成ってからだった。



怜は・・・


「 あぁ、あれ? 誰だろ? さぁ・・・
今までで知っているのは先祖の誰かってぐらいでさ。 」


そういや、誰かってのは今まで気にしたこと無いとの返答。それには物心付いた時にはすでに壁のあの同じ場所に掛けられてあったものだから、何にも思わず先祖だな~。ぐらいだけだったらしい。



「 あっ、でもさ・・・うちの鳴海の家系ってな・・・
ずっと名前に関しては続いていることがあってさ・・・」



メイドが新しく皿を置き、一瞬だけ怜の会話が途切れたけれど・・・

怜は直ぐに何も隠す事無く教える様に喋り続けてきた。



「 あのさ、名前の漢字なんだけどな・・・

 鳴海の家系は先祖代々皆、 “ 令 ” この漢字がどこかについているんだよ。
 
 ほら俺の名前も怜の左側は、命令の“ 令 ” って漢字が付いているだろ? 

だからさ、あの肖像画の中の人物も、令って漢字の入った名前だろ。

・・・って事ぐらいしか分からない。 」



すまんな。と、怜は言いながらも、少し離れた場所に居る・・・




「 ねぇ、母さん? ・・・あれ、誰? 」





怜が話しかけたのは、鳴海氏ではない母親の方だった。

それには・・・



どうして、お嫁に来た母親に聞くのだろうか?・・・



最初はふと そう思ったけれど、



怜の言った名前の漢字の由来を思い浮かべながら、鳴海氏の名前を思い出していた。



鳴海氏には、“ 令 ”とは付いていない・・・



参議院議員である鳴海氏は選挙の時に名前を国民に書かせている事も、それに自分の父の経営していた時代の書類からも、彼の名前に “ 令 ”という漢字が付かない事を知っていたから。


自分が階段下で感じていた違和感は、当て嵌まっていたと気付いたのは・・・


もう席に着いたのかと、怜が始めに確かめたのは・・・母親。



( そうか、婿に入ったという訳だ。 )

1つの答えが自分の中の疑問だった違和感を取り除いてくれていた。
だから、今も怜は母親にその事を聞き、それに肖像画をバックに座る夫人の方が、

この家の一人娘であり、華族としての鳴海の血を引き、それにこの家系の長だと言う事。

だから、鳴海氏が自分に・・・


“ あぁ、うちのが先に、こちらに泊まる様にと勧めた事も知っているから ”


了承は夫人に権利があると言う事を 仄めかしていたとも思えた。

隣の怜は、夫人に話しかけながらも、空になったグラスをすっと手の甲で外側に避けていた。
それが合図の様に、メイドが同じものでいいでしょうか?と小声で聞くそのメイドにも怜は

母親に話しかけているのだから、邪魔をするなと言わんばかりに、

夫人から目を離すことも無く会話を止める事も無く、少しだけ溶け出して氷の周りに艶々の水の膜を張った純粋な証である、透明の氷の入ったグラスの淵を指先で弾いていた。



________ チリーーン・・・


鳴り響く様にいい音を立てたグラスの小さな音色が、森の中に響いていた音と重なっている様だった。

白い羽衣を纏った天女の様な少女の姿。

一度目があった事を思い返し、幻ではないと思えた事も・・・

そして、傍に居た白猫の鈴の音ではない、音色___________ . . .



________ ・・シャラ・シャラ・・・



森でのあの後の、シャラ・・・って音までもが・・・

グラスの中に残ったほんのり溶けた1粒の、純粋無垢な氷がグラスの中を滑って当たる音とも重なっていた。



「 ・・・お兄様。 」


ここからは少し離れている蝶子が少し大きめの声で、母親の方に身を乗り出して聞いている怜に話しかける声には、自分もそして・・・怜も夫人も視線をそちらに向けていた。



「 お兄様。あんまり飲まないで下さい。 」


妹が兄に向かって少しだけ見せた嫉妬の様な表情。


「 なんで? 」


怜は蝶子の質問には意味が分からないまま、普通に返している。


「 だって・・・後で、お兄様のお部屋に伺おうと思っているんですもの。 
こちらにいらして居ても、なかなか時間を合わせて下さらないから・・・」


その蝶子の表情はすごく必死に言っている様でもあり・・・


「 いいよ、来なくて。・・・いや、来ないで。 」


兄と妹のやり取りは普通の家庭と同じなのだろう。
2人の兄妹喧嘩じみた少し大きめでの口調のやり取りに、誰も入るものは居ないほど打ち解けているとさえ感じていた。


蝶子の本当の表情は、自分が今朝 嘘かどうか確かめた事からも、彼女は今、怜とは・・・

嘘も世辞も言っていないのだと・・・それに必死に向けようとする笑顔・・・



怜に嫌われたくないと云う想いがとても伝わる程 必死に関心を自分に向け様としている事も、自分に垣間見せてくれた今朝の表情の様だと思って見ていた。



「 じゃぁ、剣さまは・・・? 」


突然自分に向けられた質問と、彼女が見せている微笑み。
小首を傾げて可愛らしく・・・猫が甘える様に、そして心から嘘の無い様な顔を自分にも、怜と同じ様に向けていた。


「 えぇ・・・ 」


彼女の兄に対しての必死さと同じ様だと思って居たからか・・・
何気なく、どうとでもどうぞ。と云う客としての礼儀を混ぜた曖昧な答えを返していた。




「 蝶子。 」




自分も怜も蝶子の方に顔を向けていた背後から、強い声がかかったのは・・・
夫人が娘に窘める、母親としての、そして、この家系の長をしての言葉なのかもしれない。


「 お客人のお方の所へお邪魔するのはいけませんよ。 」


ましてや殿方の所へ行きたいなどと自分から申す事など・・・ブツブツと夫人が注意する事は一理一般的にも合っていて、ましてや酒気を帯びた男の所へとそんな自分を侮辱する様な事は言わず信用しているとばかりにも聞こえるけれど、それとなく仄めかす母の言いたい事はきっと誰もが思う事なのだろう。
怜がどれだけ酒に強いかぐらいを知っている母親だから、今までの東京での俺達の話を聞いていたとも思っていた。


えぇ~~・・・

つまんな~い。なんて言い出しながら、自分の止まっていた手を動かし食事を続け始めた蝶子。


それにも、鳴海氏は・・・



________ トン。 ・・・ガタッ 


目の前のワイングラスをトンと置き、自分に仕えるメイドに下げてくれと言い残して席を立った。


「 鳴良さん。ごゆっくりくつろいで行って下さい。 」


自分に微笑んで言ってくれた鳴海氏は、政界では見せない父親としての家庭でだけ見せるものなのだろうと思えたほどの優しい笑みで・・・

自分の部下に対しては厳しい父が家で見せるような、父親としての表情の様だと感じていた。


「 では、蝶子はお父様と・・・ 」


蝶子が立ち上がった父親にもすがる様に、そして・・・
普段は参議院議員であるため、東京に住んでいてなかなか会わない父親。

偶に帰ってきたのだから、娘の事も大事にして欲しいと愛を乞う様に・・・

東京で怜とは毎日の様に、議員秘書としても、鳴海の跡継ぎとしても、そして息子としても会っている事に、自分の事も忘れないでと思う必死さが、彼女がこの家から出されて嫁に行かないままで居る1つの理由なのかもしれない。

自分を忘れないで欲しいと・・・


薔薇のようにいつも主役で有りたいと願う、彼女の薔薇ではないと云う印象。


薔薇には成れない彼女を感じていた。



娘の懇願の様な我儘を、ハハ・・と笑いながら、蝶子の頭にポンと手を置いて去って行った。

そんな鳴海氏が立ち去った後、お父様、少しだけで構いませぬ・・・と自分の皿にフォークとナイフを急に揃えて立ち上がった蝶子。食事を止めても父親や兄との、自分を可愛がって欲しいと・・・

この家の猫よりも、誰よりも・・・

家族に愛情を求めているのだとは、この家系を愛して止まない、いつかは他家へ嫁いで行かねば成らない・・・

“ 令 ” と名に付かない事で

彼女は家系の除け者の様な気にさせられているのだろうとも感じ取れていた
・・・彼女の心からの悲願の様だった。



「 もう・・・ 」


口を開いたのは夫人で


「 お客様の前で申し訳ありません。 」


そう自分に頭を下げて、首を横に振りながら夫人は、自分の娘のはしたなさを鳴海の恥と感じ、居ても立っても居られなく成ったと見える様で・・・

自分は・・・


「 いえ・・・」


そう頭を下げて顔を上げた時には、夫人はもう席を立ちそこには居なかった。




「 あぁ、ごめん。いつもの事よ。 」


怜は、ごめんな。気にしないでくれと言いつつ食事と共にスコッチを楽しんでいた。


________ カラン・・・


怜の置いたグラスから立った純粋な氷の音は、さっき聞いた様な鈴の音の様ではなかった。

今自分が思った全ての鳴海家の家族事情に、1つだけどうしても、自分の良心に引っ掛かった事があった。

確かめたいと思う気持ちが強くなっていて、食事の方はこれ以上進まないで居た程。
それを見た怜が、気にすんな。本当に。と屈託ないままの微笑みでグラスを飲み干していた。



「 ねぇ・・・聞いたら悪いのかどうか分からないけど・・・」


自分の話しかけた言葉に、そぉ?そんな悪いと思う事を聞くような野暮じゃないお前だって事は承知しているぞ。なんでも聞いて。と言ってくれる怜に自分は言葉をその勢いで、躊躇う前に続けていた。


「 鳴海氏。お前の父親って参議院議員だよな。 」

「 あぁ、そうだけど、何? 」


自分の問いかけに何処が失礼な事なのか意味が分からないと云う表情で・・・


「 ・・・参議院議員って事は、華族の出ではない鳴海氏は・・・」

「 あぁ、父の元々の家系の事? あのさ・・・。 」


怜は別にどうって事はないと言う顔で、あのさ・・・。の後に続いた言葉は自分にでは無く、傍仕えのメイドにだった。


 ・・・あのさ、もう一杯、俺のと剣の。同じもの持ってきて。


その怜に察知し従う様に、この部屋からは全てのメイドが消えて行った。

ピアノの音も止み、静かになった室内。
パタンとドアが閉る音と共に、怜は今までと違う普通の声の大きさに成っていた。




「 父さんはさ・・・公家の出で、父親の家系である公家の方が格が上だけど
華族の1人娘の母親が、公家の次男である父を婿に貰ったんだよ。 」


( 公家か・・・ )

華族の一族に婿に来るからには相当の家系の者ではないと入れない事も承知で居て、聞いていた事だった。怜はテーブルに肘を付いて手を口元の傍に置き頬杖を付いていたけれど、そのまま言葉を自分に顔を向け、その表情を隠す事無く続けていた。


「 だから、令の名は・・・親父には、付かないけどね。 」


お前も選挙で知ってるよな~。と微笑みながら言うその後、突然・・・
商談の時に相手を威圧する様な、冷たい何の感情も持たない笑顔をしていた。


「 フッ。 」


溜息の様に短く笑った怜は、そのまま・・・






「 息子には、もちろん付けてるよ・・・」





怜が言ったその言葉の意味は、怜の名を知る自分には当たり前だと思っていた。






もう一杯のこの後に運ばれてきたスコッチと、食事を最後まで時間を掛けて味わいながらの会話にはもう、商用の様な表情は少しも浮かべる事はなかった。


その後・・・


怜は、少し電話をしなければ成らないとの言葉と、また明日と自分に告げて1階でそのまま別れた。怜の背中を見送る事無く自分も階段を登っていた。




部屋に帰ってきて、窓をまず開けていた。



自分が感じた1つの胸騒ぎ。
心の中の強いその想いがどうしても、自分の良心に引っ掛かり確かめたいと思う気持ちが強くなっていた食事中。自分にはその事だけで頭が一杯にさせられていて、食事が進まなく成る程の・・・


部屋に帰って来て直ぐに、携帯電話を取り上げていた。


開け放した窓からは潮風が、火照った頬を優しく撫でてくれていた。
手に取った携帯電話の時間を確かめて、電話を掛けていたにも関わらず、電話先は・・・

留守番電話に成っていた。


メッセージを残せるほど簡単な事では無くて、ただ無言で電話を切った。




今日はあの後、屋敷の中に猫は居ない。

自分と共に屋敷の外に出てから、一体何処に行ってしまったのだろうと思いながら・・・





自分が掛けた電話先の状態を思い・・・


どう言うべきなのか考えていた _____________





怜と自分にとって、お互いに親友同士という関係でいる、山延にだった。





おい・・・お前本当は・・・


蝶子さんを嫁に欲しい理由って・・・・・





蝶子の表情が、自分と怜に向けたものと


山延に向けたものと違うという事に・・・





病床の山延の蝶子への想いが無駄なのではとは、出会ったばかりの自分にも判るほどで・・・


それを山延が気付かない筈はないと思う程に、自分は・・・


山延の仕事での頭の切れることを熟知もしていれば・・・




では・・・

・・・なぜ・・・




そう疑問に思った山延の事。それがもしかしてと繋がる自分の良心が咎めた事の理由。



山延の考えている事が、今の自分の考えと、もし違わないものだとしたら、



自分の親友は・・・



俺の為に・・・



人生を捧げてくれたのだと最終的な結果としてはそうなるのだと思って・・・



そこまでされたら・・・






BLUEBELL WOOD Act 4©


天を見上げ仰いだ澄んだ空よりも、深く蒼く・・・

その世界の芳香を、海からの風の中に残す事も無く・・・

耳鳴りの様に自分の脳裏に響かせた音すらも聴こえて来なく・・・






その想いは・・・




自分にはどうしたらいいのだろう ___________ . . . . .






開け放した窓の外の暗闇を見詰めていた。





Dark - Act 4©







― Cast ―


敦賀 蓮
貴島 秀人
松内 瑠璃子
京子












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Story by mimi * ™ From far away beyond bautiful sea.

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今回も、もちろん・・・

Back Stage があります。

今回は、2話

Back Stage from Act.4 『 予感 』 より 1&2へは、写真をクリックして下さい☆
2枚の写真が、そのシーンの撮影風景に成っています。


( 前回の様に、Love Letter には載せませんでした )


行ってらっしゃいませ _______________________




☆ こちらの作品は、2014/ 10 /06 にUPしましたが、作品を一箇所に纏める為に日付をずらしました ☆


CM: --
TB: --
mimi's world from Ren Tsuruga and Chuehonn Hizuri
Love Letter from RT and CH

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